SF小説 Starforge Odyssay

Starforge Odyssey 第5話

ベガのメルカバ精神修養

ワープ・スペース・アウト。

視界の端から、別の宇宙が静かに重なってくる。

ベガ高速船ルミナスは、バブル・ジャンプを繰り返し、
地球から25光年の距離を超えて、ついにベガ宙域へ到達した。

ここは、太陽系とはまったく異なる宇宙空間だった。

太陽のような光に照らされた空間ではない。

天の川銀河の中心から押し寄せる白い光が、
空間全体を淡く、圧倒的な密度で満たしていた。

地球で見た“薄い帯”の天の川とは違う。

ここでは銀河は、星々が溶け合い、流れ、脈動する──
光の大河 として存在していた。

ヤマトは、その光景に息を呑む。

船内での生活にも慣れ、宇宙の知識を貪欲に吸収してきた彼でも、
この光景は想像を超えていた。

カイがナビ席から静かに告げる。

「キャプテン、ベガの宙域に入りました。
 もうすぐで、ルーメリアに到着です」

ヤマトは振り返る。

「ルーメリア……?」

アリオンが静かに頷いた。

「そうだ。ルーメリア──それが、我々ベガ文明の母星だ」

カイが前方のスクリーンを拡大する。

「ルーメリアが視界に入りました」

銀河の光の海の中に、ひとつだけ沈黙した惑星が浮かんでいた。

赤錆色の惑星。
地球より少し大きい、その星は、光を反射せず、
むしろ、吸い込むような重さをまとっている。

ヤマトは思わずつぶやく。

「……ここに、ベガの人たちが住んでいるのか……」

アリオンは静かに答える。

「地表ではない。地表は核汚染で住むことはできない。
 我々は地下に都市を築き、そこで暮らしている」

ヤマトはスクリーンを見つめたまま、
胸の奥に重いものが沈むのを感じた。

赤錆色の惑星──
かつて文明が栄えた星が、
今は沈黙した廃墟のように見える。

ルミナスはルーメリアの上空軌道へ入り、
ゆっくりと姿勢を変えた。

カイが報告する。

「宇宙港とのリンク確立。
 マザー・メルカバからの応答を受信しました。
 これより地下港へジャンプします」

瞬時に空間が変化し、ルーメリアの地下港に切り替わった。

アリオンが言う。

「ヤマト。ようこそ、我々の母星ルーメリアへ。君を歓迎する」

「これから、君をベガの長老たちのいる評議会に連れていく」

アリオンとヤマトの姿がふっと揺らぎ、次の瞬間、別の空間へ切り替わった。

評議会の間。

光が層を成し、静かに脈動している。

「ようこそ。ヤマトくん。わしは、議長のセラフィオンである」

ヤマトには、長年生きてきた仙人のような老人に見えた。

「はじめまして、地球からきた高城ヤマトといいます」

セラフィオンは微笑む。

「さっそくじゃが、
 君はここでメルカバの精神修養をしてもらわなきゃいかん」

「そうしないと、銀河の旅で、君の心身が崩壊してしまう」

「バブル・ジャンプは、経験したじゃろ?」

「はい、相当疲れました。特に精神がきつかったです」

「そういうことじゃ」

ヤマトは深く息を吸う。

「ぜひ、修行お願いします」

「じゃあ、修行の場へ移ろうかの」

アリオンがヤマトの肩に手を置く。

「ヤマト、がんばれよ」とアリオンは励ました。

空間が切り替わる。

そこは、時間と空間の制約がほどけた“間”の領域だった。

「……なんだ、この空間……頭が……」

ヤマトは迷路に迷い込んだような感覚に襲われる。

セラフィオンが言う。

「慣れるまでは我慢じゃ。
 ここは、第6密度に近い者だけが生成できる場」

「師匠……どうすれば……?」

「瞑想じゃ。
 アリオンとの精神融合で、やり方は身についておるはずじゃ」

ヤマトは目を閉じる。

「……はい。やってみます」

光が静かに脈動し、
ヤマトの意識は、深い深い層へ沈んでいった。

空間がふっと切り替わった。

ヤマトは思わず足を踏みしめようとしたが、
足元に“床”という感覚がなかった。

上下も、左右も、前後も──
すべてが曖昧なまま、
ただ“在る”だけの空間が広がっていた。

光があった。
だが、光源はない。
影も落ちない。

「……ここは……?」

声を出したつもりだったが、
音はどこにも届かなかった。

空間が吸い込んだのではない。

音という概念そのものが存在していない。

セラフィオンの意識が、
柔らかい波のようにヤマトへ触れる。

「ここは“間”じゃ。
 形のない空間。
 密度が高いほど、空間はこうして曖昧になる」

ヤマトは目を閉じた。

閉じても光は消えない。

むしろ、まぶたの裏側から光が染み込んでくる。

方向感覚が崩れ、
自分の身体の輪郭すら曖昧になっていく。

「……頭が……」

セラフィオンの意識が寄り添う。

「大丈夫だ、ヤマト。
 最初は誰でも混乱する」

ヤマトは呼吸を整えようとするが、
呼吸のリズムすら自分のものではないように感じた。

セラフィオンが言う。

「ここでは、君の“形”が揺らぐ。
 それは恐れではなく、解放の兆しなのじゃ」

ヤマトは震える意識で問う。

「……どうすれば……?」

「瞑想じゃ」

セラフィオンの意識が、
静かにヤマトの中心へ触れた。

「アリオンとの精神融合で、
 瞑想の“型”はすでに刻まれておる。
 あとは、君がそれを“思い出す”だけじゃ」

ヤマトは、ゆっくりと目を閉じた。

光は消えない。

むしろ、光が自分の内側へ流れ込んでくる。

呼吸が深くなる。

身体の輪郭が、さらに薄くなる。

「……あ……」

ヤマトの意識が、
胸の奥にある“点”へ吸い込まれていく。

その点は、光でも闇でもない。

ただ、静かに脈動していた。

セラフィオンの声が響く。

「それが“君の中心”じゃ。
 そこから、メルカバは開く」

ヤマトの内側で、
何かがゆっくりと回転を始めた。

最初は小さな渦。

やがて、渦は光を帯び、
形を持たない形として広がっていく。

セラフィオンが静かに言う。

「ヤマト……それが、君のメルカバだ」

ヤマトは息を呑んだ。

自分の内側で回転する光の渦が、
まるで、宇宙そのもののように感じられた。

セラフィオンが告げる。

「ここからが、本当の修養じゃ。
 君の“心の形”を整え、
 銀河を旅するための器をつくる」

光が脈動し、空間が静かに震えた。

ヤマトの修行が、いま始まった。

つづく

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