SF小説 Starforge Odyssay

Starforge Odyssey 第2話

ベガからの誘い

光が弾け、視界が白に染まった。

次の瞬間、足元に硬い感触が戻り、ヤマトは思わず息を呑んだ。

——ここは、どこだ?

恐怖ではない。

ただ、あまりにも唐突に“別の場所”へ移されたことへの、純粋な驚き。

身体は無事で、痛みもない。

だが、空気の匂いも、重力の感覚も、地球とは微妙に違っていた。

ヤマトは周囲を見回した。

見たことのない構造物。

光源はあるのに影が生まれない。

空間そのものが静かに脈動しているように感じられる。

その時——
背後で光が集まり、人影が形を成した。

ヤマトは反射的に声を上げた。
「……お前は、誰だ?」

光の存在は、ゆっくりと歩み寄りながら答えた。

「驚かせてしまったようだね。私はアリオン・セレス。
 ベガ地球観測調査隊の隊長だ」

その声は、空気を震わせるのではなく、
直接意識に触れるような不思議な響きだった。

ヤマトはさらに問いかける。

「ここは……どこなんだ?」

アリオンは静かに答えた。

「ここは、ベガ高速船《ルミナス》の中だ。
 いきなり転送してしまって、すまなかった。
 君を驚かせるつもりはなかった」

ヤマトは言葉を失う。

“ベガ”という単語が、現実感を奪っていく。

アリオンは続けた。

「私たちは、銀河の遠い星——ベガから来た。
 何千年もの間、この地球を観測してきた。
 そして、君も生まれた時からずっと観測していた」

ヤマトの胸がざわつく。

「……僕を、観測……?」

アリオンは頷いた。

「20年前の滑落事故を覚えているだろう。
 あの瞬間、君の遺伝子の一部が覚醒した。
 その波動に、地下都市のセンサーが反応したのだ」

ヤマトの脳裏に、幼い日の記憶がよみがえる。

崩れ落ちる岩壁。父の叫び。

そして——光。

アリオンの声が重なる。
「君は、いずれ“人類の特異点”として目覚める。
 それを我々は予見していた。だから私は、君を迎えに来た」

ヤマトは言葉を失ったまま、ただ立ち尽くした。

驚き、戸惑い、理解が追いつかない。

夢を見ているような感覚。

だが、胸の奥の“ざわめき”だけは、確かに現実を告げていた。

巨大都市の中心部——かつては地下深くに眠っていたその構造体は、
今や地上に浮上し、まるで心臓のように脈動を続けていた。

壁面を走る光のラインが周期的に明滅し、
都市全体が低い振動音を響かせている。

空へ向かって伸びる光柱は、まるで“誰か”に応答しているかのようだった。

その中央で、ジェームズ・ピースハート団長とエミリーは立ち尽くしていた。

つい数秒前まで、ヤマトはそこにいた。

Gemini Coreモジュールをセットし、
都市が反応し、そして——光に包まれて消えた。

エミリーは震える声で呟いた。

「ヤマトが……消えた……どこに行ったの……?」

彼女の瞳には、恐怖ではなく“理解できない現実”への戸惑いが浮かんでいた。

ジェームズ団長は、都市の中心部に残る光の残滓を見つめながら答えた。

「……おそらく、転送ビームだ。だが、どこへ送られたのかは分からん」

その声には、長年の経験からくる冷静さと、
親友の息子を失ったかもしれない不安が入り混じっていた。

エミリーは、ジェームズ団長の袖を掴む。

「転送って……そんな技術、地球にはないわ。じゃあ、誰が……?」

ジェームズ団長はゆっくりと首を振った。

「異星文明だ。この都市を造った者たち……
 あるいは、その後継者かもしれん」

ジェームズ・ピースハート団長は、
地球でも数少ない“異星文明研究者”の一人だった。

ヤマトの父・ムサシと共に、世界中のオーパーツや古代遺跡を調査し、
地球に残された“異星文明の痕跡”を追い続けてきた。

だからこそ、彼には分かっていた。

——これは、地球の技術ではない。
——そして、ヤマトは“選ばれた”のだ。

だが、それでも。

「……無事だろうか」

ジェイムズ団長の呟きは、誰に向けたものでもなかった。

エミリーは唇を噛みしめ、都市の光を見上げた。

「ヤマト……お願い、無事でいて……」

都市は答えるように、再び低い脈動を響かせた。

アリオンは、ヤマトの表情を静かに見つめていた。

その瞳は深い蒼色で、まるで星雲の奥を覗き込んでいるようだった。

「ヤマト。君が起動させた地下都市——
 あれは、銀河文明にとって重大なシグナルだ」

ヤマトは息を呑む。

アリオンは続けた。

「地球は今、次元上昇の入口に立っている。
あの都市の起動は、地球が“銀河文明の仲間入りを始めた”という合図でもある」

ヤマトは眉をひそめた。

「……次元上昇? 銀河文明の仲間入り……?」

アリオンは頷く。

「地球が銀河連邦に参加するためには、精神性を引き上げる必要がある。
争いを手放し、化石燃料に依存する文明段階を超えなければならない」

その声は責めるものではなく、ただ静かに事実を告げる響きだった。

「このままでは、地球は宇宙へ進出することはできない。だが——」

アリオンはヤマトの胸元を指し示す。

そこには、父の形見である勾玉が微かに光を宿していた。

「君がいる。君の覚醒は、地球文明の成長を加速させる“鍵”となる」

ヤマトは言葉を失った。

アリオンは一歩近づき、静かに告げる。

「君は、地球と銀河をつなぐ“橋”となる。君の旅は、地球の未来そのものだ」

その言葉は、ヤマトの胸に深く響いた。

理解は追いつかない。

自分が何者なのかも、なぜ選ばれたのかも、まだ分からない。

だが——胸の奥に、確かに何かが灯っていた。

(……僕が、地球と銀河をつなぐ?そんなこと、本当にできるのか?)

迷いはあった。

だが同時に、抑えきれない感情も湧き上がっていた。

——知りたい。
——見てみたい。
——この広い宇宙を、自分の目で。

アリオンはヤマトの心の動きを読み取ったかのように微笑む。

「恐れる必要はない。君はすでに“呼ばれた”のだ。
 あとは、進むかどうかを決めるだけだ」

ヤマトはゆっくりと息を吸い、胸のざわめきを確かめるように目を閉じた。

そして、静かに答えた。

「……行くよ。僕は……この旅を選ぶ」

アリオンは満足げに頷いた。

「それでいい。ヤマト、君の旅はここから始まる」

光が、ヤマトの足元で静かに揺らめいた。

アリオンは、ヤマトの迷いを見透かしたように微笑んだ。

「決断は急がなくていい。一度、地球の仲間に会ってくるといい」

その言葉と同時に、足元から光が立ち上がり、ヤマトの身体を包み込んだ。

次の瞬間——視界が反転し、地面の感触が戻る。

「ヤマト!!」

叫び声と同時に、エミリーが駆け寄ってきた。

涙を浮かべたまま、勢いよく抱きつく。

「よかった……本当に……!」

ヤマトは驚きながらも、その腕の震えから、どれほど心配させたかを悟った。

少し離れた場所で、ジェームズ団長が深く息を吐いた。

「無事でよかった……だが、何があった?」

団長の表情は安堵と同時に、“真実を聞く覚悟”を帯びていた。

ヤマトは、言葉を選びながら話し始めた。

「……僕は、転送されたんです。ベガ高速船に。
 アリオン・セレスという……ベガ人の隊長に会いました」

エミリーが息を呑む。

「ベガ……? 本当に……?」

ヤマトは頷き、続けた。

「彼は言いました。僕が“呼ばれた”理由……
20年前の事故で、僕の遺伝子が覚醒したからだと」

ジェームズ団長の表情が変わった。

その目は、長年隠してきた真実を語る覚悟を帯びていた。

「……ヤマト。君の母マリーと、叔母のエリザベスは——プレアデス系の末裔だ」

ヤマトは言葉を失った。

ジェームズ団長は静かに続ける。

「彼女たちは第4密度の存在だ。地球人に最も近い種族で、特定の能力を持っている。
崩落事故で君とエミリーが無事だったのも……その血筋の力が働いたからだ」

エミリーが震える声で口を開いた。

「……覚えてるの。あの時、ヤマトの身体が光って……
一度“死んでいた”のに、息を吹き返した。あれは……普通じゃなかった」

ヤマトの背筋に冷たいものが走る。

自分の過去が、自分の存在そのものが、別の意味を帯びていく。

(……僕は、一体……)

胸の奥がざわつき、しかし同時に、どこかで“納得”する自分もいた。

アリオンの言葉が脳裏に蘇る。

——君は、地球と銀河をつなぐ“橋”となる。

ヤマトは深く息を吸い、団長とエミリーを見つめた。

「……必ず、帰ってくる。だから……信じて待っていてほしい」

エミリーの目に、再び涙が浮かぶ。

「ヤマト……」

ジェームズ団長は静かに頷いた。

「行け。ムサシの息子よ。お前の旅は、まだ始まったばかりだ」

その瞬間、空から光が降り注ぎ、ヤマトの身体を包み込む。

エミリーが手を伸ばす。

「ヤマト——!」

光が弾け、ヤマトの姿は再び消えた。

残されたのは、静かに脈動を続ける巨大都市の光だけだった。

光が収束し、ヤマトの足元に再び柔らかな床の感触が戻った。

ベガ高速船《ルミナス》のコントロール・ルーム。

先ほどと同じ静寂が広がっているのに、
ヤマトの胸の内はまるで別世界のようにざわついていた。

アリオンがゆっくりと歩み寄る。

その姿は光の層でできているようで、近づくほどに輪郭が柔らかく揺らめいた。

「戻ってきたね、ヤマト」

その声は、地球の誰とも違う響きを持ちながら、不思議と安心感を与えた。

ヤマトは息を整えながら問いかける。

「……アリオン。僕は……一体、何者なんだ?」

アリオンはしばらくヤマトを見つめ、
やがて静かに口を開いた。

「君は、リラ人の思念体と融合した唯一の地球人だ」

ヤマトの心臓が跳ねた。

アリオンは続ける。

「そして、君の母方の血筋——プレアデス系の遺伝子を半分受け継いでいる」

ヤマトは言葉を失う。

自分の身体の奥に、知らない“何か”が眠っていたという事実が、
ゆっくりと重みを持って胸に沈んでいく。

アリオンは一歩近づき、ヤマトの胸元に視線を落とした。

「二つの文明の“橋”となる者。それが、地下都市のシステムと共鳴する“鍵”となった」

ヤマトの胸の奥が、微かに熱を帯びる。

まるでその言葉に反応するように。

アリオンはさらに深い真実を告げた。

「ヤマト。あの地下都市は——古代リラ人が地球に来た時の“巨大移民宇宙船”だ」

ヤマトは息を呑んだ。

アリオンの声は静かだが、その内容はあまりにも大きい。

「君が起動させたのは、彼らの遺産そのものだ。

 そして、それに応答できたのは……君だけだ」

ヤマトの喉が乾く。

「……僕の……運命、なのか?」

アリオンは首を横に振らなかった。

ただ、静かに肯定する。

「そうだ。だが——選ぶのは君自身だ」

その言葉は、優しさと厳しさを同時に含んでいた。

運命を押しつけるのではなく、“選択”として差し出す声だった。

ヤマトはゆっくりと目を閉じ、胸の奥にあるざわめきを確かめる。

恐れもある。迷いもある。

だが、それ以上に——知らない世界への強烈な衝動があった。

ヤマトは静かに頷いた。

「……行くよ。僕は……この旅を選ぶ」

アリオンの瞳が柔らかく光る。

「ようこそ、ヤマト。ここから——銀河の旅が始まる」

コントロール・ルームの光が、まるで祝福するように静かに脈動した。

つづく

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