SF小説 Starforge Odyssay

Starforge Odyssay 第4話

空間文明の種族ベガ

太陽は、スクリーンの向こうで静かに揺れていた。

その光は、地球で見たどんな朝日よりも遠く、どこか冷たかった。

ヤマトは、ベガ高速船ルミナスのブリッジ中央に立ち、
胸の奥がざわつくのを抑えきれずにいた。

「準備は整った。最初のジャンプは一光年だ」

アリオン隊長の声は、深い湖の底から響くように静かだった。

その落ち着きが、逆にヤマトの緊張を際立たせる。

航行技術士カイが振り返り、軽く笑う。

「大丈夫。最初は誰でも波形が乱れるからさ」

レイラ副長が、そっと肩に触れる。

その手は温かく、呼吸を整えるように優しい。

「恐れなくていいわ。あなたの意識は、もう宇宙に触れ始めている」

ヤマトは小さくうなずいた。

心臓が早鐘を打つ。

だが、逃げたいとは思わなかった。

アリオンが目を閉じる。

「では──空間を開く」

前方スクリーンが淡い光に満たされ、
光は揺らぎ、層を成し、呼吸するように脈動した。

世界が多層化する。

色、形、距離──すべてが重なり、ほどけ、また重なる。

胸の奥が引き伸ばされるような感覚。

思考が波紋のように広がり、世界が遠ざかる。

「……っ!」

カイのナビゲーション・モニタに赤い線が走る。

「波形が跳ねた! ヤマト、意識を一点に集中して!」

レイラが静かに囁く。

「大丈夫。空間はあなたを拒まないわ」

アリオンの声が、深い静寂の中で響く。

「空間は移動しない。
 我々が、空間を迎えに行くのだ」

次の瞬間──
太陽系は光の粒となって後方へ流れ去った。

ヤマトは息を呑む。

前方のスクリーンには、見たことのない星々が広がっていた。

「……これが、太陽系の外側……」

アリオンが静かに目を開ける。

「ようこそ、宇宙へ。
 ここから先は、地球の常識では測れない世界だ」

ジャンプの余韻がまだ身体に残っていた。

ヤマトは深く息を吐き、胸の奥のざわつきを確かめる。

レイラが微笑む。

「少し休みましょう。船内の生活についても案内するわ」

ブリッジを出ると、廊下は存在しなかった。

代わりに、淡い光が揺らぎ、空間が静かに形を変えていく。

「……部屋が、生まれてる……?」

「ええ。あなたの状態に合わせて、最適な休息空間を生成しているの」

空間は柔らかな光の部屋へと変わり、
ベッドのようなものが自然に形を成す。

「ベガ人は、固定された空間を持たないの。
 必要なときに、必要なだけ。
 無駄を生まないことが、私たちの文明の基本よ」

ヤマトはその言葉を噛みしめた。

地球の“部屋”という概念が、急に古く感じられた。

休息を終え、再びブリッジへ戻る。

「次のジャンプに入る。
 ヤマト、意識を一点に集めることを忘れないように」

アリオンの声は静かだが、確かな導きがあった。

カイが笑う。

「いいね、その波形。さっきよりずっと安定してるよ」

レイラが補足する。

「あなたは順応が早いわ。
 宇宙は、恐れるより“感じる”ものよ」

2回目のジャンプ。

ヤマトは、先ほどよりも宇宙に馴染んでいた。

休憩後、空間が静かに変形し、
巨大なホログラムが浮かぶ“講義室”が生成される。

宇宙文明史研究官ミラ・サフィールが、静かに語り始める。

「ベガ文明は、空間を“固定された箱”とは考えません。
 空間は意識の延長であり、
 必要に応じて形を変える“流体”のようなものです」

「空間が……流体?」

「ええ。あなたたち地球人が“移動”と呼ぶ行為も、
 本来は空間の再配置にすぎません」

ミラの声は静かで、どこか祈りのようだった。

「私たちは、空間を押し広げたり、折り畳んだりして、
 自分たちの意識に合わせて世界を調整します。
 だから、部屋も、廊下も、固定の建築も必要ないのです」

ヤマトは息を呑む。

地球文明の“物質中心の世界観”が、音を立てて崩れていく。

講義が終わると、空間が深い青と金の光に包まれた
“監視室”のような空間へと変わる。

保安主任・干渉リスク監査官のエルン・フェルディアが、静かに語り始める。

「地球に介入しないのは、我々の倫理の根幹だ。
 文明は、自らの意志で成長しなければならない」

「でも……あなたたちなら、地球をもっと良くできるんじゃ……?」

エルンは首を振る。

「それは“救済”ではなく“支配”だ。
 文明の成長は、痛みと選択の積み重ねでしか得られない。
 我々が介入すれば、その未来を奪うことになる」

ヤマトは言葉を失う。

「ただし──」

エルンは続ける。

「観測し、必要なときに“扉を開く”ことはある。
 君が今ここにいるように」

その言葉は、ヤマトの胸に深く刺さった。

自分は“選ばれた”のではなく、
“扉を開く側に立つ存在”として見られている──。

つづく

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