未知の生物との接触
未知の惑星バーナード星の上空で、二隻の戦艦は緊張に包まれていた。
アグライア号が発進したと同時に、ハヤトはダイダロスゼノン号のシルビアに通信し、
爆音と地響きがあった地下都市の状況を分析させた。その間、メフィストスは、いったん地上へとアグライア号を不時着させ、
少年を乗り込ませるとまた発進させた。地下都市で発生した爆音と地響き。
それが、ただの崩落ではないことを、ハヤトは直感していた。
「ハヤト、やはり地下のサーチは出来ないわ。けど、センサに熱反応があったわ」
モニター越しの声は冷静だったが、その奥には明らかな緊張が滲んでいた。
「よくやった。シルビア」
「で、どうだ?」
「ええ、何か大きな塊が地下を動いているみたい。けど、ここからはこれ以上は無理ね」
「そちらから、何か分からないかしら?」
通信の向こうで、わずかな沈黙が流れた後――
メフィストス艦長からの低く重い声が割り込んだ。
「分かった。では、こちらからも分析をしてみよう」
「それから、いったんこちらに来てくれ。ハヤトとガイアをそちらに連れていく」
「了解」
ダイダロスゼノン号はバーナード星上空まで降りてくると、アグライア号と空中でドッキングし、
ハヤトとガイアを回収した。ハヤトはその際、少年も一緒に連れてきた。
ダイダロスゼノン号ブリッジ――
「ハヤト、その子は?」
シルビアが問いかける声に、ハヤトは少年の肩に手を置きながら答えた。
「ああ、この星の子だ」
「他にも、地下のあちこちに都市があるらしい」
「それで、さっきも熱反応があったのね」
「ここから、そう遠くない場所みたいよ」
その言葉に、少年の顔が一瞬で青ざめた。
「まさか……僕達の住んでいた場所じゃないよね」
「それは……ちょっと分からないわ。
私達は、この土地のどこに地下都市があるのかさえ分からないのよ」少年は唇を噛みしめ、必死に記憶を辿るように顔を上げた。
「僕、分かるよ」
ハヤトは思わず身を乗り出した。
「ホントか?」
「うん、実は父さんに内緒で友達とあっちこっち探検したりしててさ。
他の都市の子とも時々遊んだりしてるからね」「地下都市は都市ごとに巨大な扉があって、そこは大人の許可がないと通れないんだ。
そこは、たぶん他の都市へいける通路だと思うんだけど、
僕達子供しか通れない狭い穴もあるんだ」「だから、頭の中に入ってるよ」
「地下都市は、そう多くないしね」
「じゃあ、いくつあるの?」
シルビアは少年に優しく尋ねた。
「うん、地下都市は全部で五つ」
「五つ?」
「他には?」
「ううん、ないよ」
「以前は、もう少しあったみたいだけど、あの化け物に襲われて……」
「だから、大人たちは他の星に助けを求めたんだ」
「けど、けど……誰も助けに来てくれないんだ。
だから僕達は、このままここで死ぬしかないんだ」その言葉は、幼い声とは思えないほど重く、艦内の空気を凍りつかせた。
「そんな……酷い」
シルビアは、少年を不憫に思った。
「そしたら、僕達の星の近くに船が飛んでるのを見つけたって誰かが言って……
これで僕達助かると思ったのに……」少年は堪えきれず、大粒の涙を流しながら肩を震わせた。
その小さな背中を見つめながら、誰もすぐには、言葉を発することができなかった。
その時、アグライア号のメフィストス艦長から緊急通信が入った。
『中級の熱源反応があった』
それは偶然ではない。
明確な“破壊”の兆候だった。
操縦席に座るハヤトは、低く呟くように言った。
「……と言うことは、どこかの都市が、何かに破壊されたと言うことか。
このままでは、地下の人々が危ない」次の瞬間、ハヤトは居ても立っても居られず、動いていた。
操縦桿を強く握り込み、機体を地表すれすれまで急降下させる。
「ハヤト何を?」
シルビアの驚きの声が響いたと同時に、メフィストス艦長から鋭い叱責が飛んだ。
『ハヤト、何をしている』
「何をって? もちろん、地下にいるという化け物をおびき出すんですよ」
『それは危険だ。相手がとんなものかも分からないんだぞ』
ハヤトの目は、すでに地面を射抜くように見据えていた。
「だが、このままでは地下にいる人々も危険なんだ。
化け物が、こっちに気を向けてくれれば、人々が逃げる時間も稼げるはずだ」その言葉に、ケンジの声が力強く重なった。
『先輩、俺も先輩の案にのります』
『こら、ケンジ、君まで何を言っているんだ』
「艦長、無茶かもしれないですが、このまま、この星の人たちを放おってはおけません。
乗りかかった船だし、この星の人たちが救えなくて、
これからやろうとしている事が、できるとは思えないんです」「きっと、俺の兄も、黙って見過ごすことはできないと思います」
「お願いします。やらせて下さい」
しばしの沈黙――
やがて、メフィストス艦長の重い決断が下された。
「仕方がない。分かった。が、もしもの時には……分かっているな?」
「はい」
ケンジの返答には、迷いはなかった。
二隻の戦艦は高度を限界まで下げ、地表を舐めるように低速で飛行を続けた。
静寂――
ただ、風圧だけが機体を震わせる。
やがて――十数分後。
地中に異変が走った。
警戒センサーが一斉に反応を示す。
次の瞬間、地面が裂けた。
巨大な何かが、まるで槍のように突き上がり、アグライア号へと激突した。
「うわっ!」
衝撃で機体が大きく揺れ、内部に警報が鳴り響く。
「ケンジ、艦の損傷具合を確認してくれ」
「アグライア号、大丈夫か?」
ハヤトからの確認の通信がアグライア号に入った。
「ああ、とりあえずはな。しかし、敵を見ることが出来なかった」
「そちらで何か分かるか?」
メフィストス艦長は、冷静に答えた。同時に、冷静に状況を分析。
「はい、後方のカメラが、そちらの様子を捕らえていました」
ガイアがメフィストス艦長に分析結果を報告。
「モニターで出します」
映し出された映像。
地割れと同時に現れた“巨大生物”。
長大で、異様で、生命の常識から逸脱した存在。
「なんて大きいんだ。あんなのが地中にいたなんて……」
「あんなのやっつけられるの?」
少年の震える声に、ハヤトは静かに歩み寄った。
そして、少年の肩に手を置く。
「ああ、任せておけ」
「俺達が必ず、みんなを助ける」
その言葉には、確かな決意が宿っていた。
彼はゆっくりと前を向き、その巨大生物を見据える。
この星に確実に存在する脅威。
運命は、どこまで彼らを試すのか。
そして、この星に残された人々の運命はどうなるのか。
つづく