SF小説 銀河大戦

銀河大戦 第47話

未知の惑星

ケンジたちの乗ったアグライア号は、ワームホールを抜け出し、
数万光年の距離を一瞬にして跳躍していた。

ジャンプ・ドライブは完璧に作動し、艦内には成功の静かな余韻が流れていた。

だが、その安堵は、次の瞬間に引き裂かれる。

出現と同時に、三隻のサルページ船が獲物に群がるように取り付き、
アグライア号の制御を奪った。

完全な奇襲だった。

それを目にした瞬間、艦橋の中央に立つ彼は思わず前に踏み出し、
悔しさを滲ませて叫んだ。

「しまった。アグライア号が異星人に鹵獲されてしまった」

ハヤトの言葉に反応するように、シルビアが即座に身を乗り出し焦りを隠さず言う。

「彼らを早く助けないと」

彼は歯を食いしばりながらも、低く応じた。

「ああ、わかってる」

その間にも、ガイアから冷静な報告が入る。

「惑星の位置からすると”バーナード星”であると確認しました」

彼は一瞬だけ思考を巡らせ、すぐに判断を下した。

「そうか……で、どういう種族がいるのか、まず調査しないとな」

センサーを見つめていたシルビアが、わずかに眉をひそめる。

「ホモサピエンスの存在反応があるわね」

彼は即断した。

「そうか。それじゃ、俺とガイアで上陸する」

「シルビアは、船で待機していてくれ」

女性は一瞬ためらいを見せたが、すぐに頷く。

「わかったわ。気を付けてね」

彼は短く息を吐き、静かに答えた。

「ああ」

一方、鹵獲されたアグライア号は解体ドックに――

荒々しい怒号が響いていた。

「さあ、とっとと降りろ」

その命令に反発するように、ケンジが一歩前に出て睨み返す。

「なんだと」

しかし、その動きを制するように、落ち着いた声が低く響く。

「やめろ、ケンジ。今は言う通りにするしかない」

周囲を見回していた男が、いやらしく笑う。

「こいつは、良い船でっせ。高額で売れますぜ」

親分格の男が満足げに頷いた。

「ああ、こんな状況だ。戦艦なら政府も欲しがるだろうよ」

そして、冷たく命じる。

「お前らは、ここに入ってろ」

閉じ込められた瞬間、ケンジは怒りを押し殺しながら問い詰めた。

「艦長、どうして、あいつらの言いなりになったんですか?」

だが、返ってきたのは、メフィストス艦長の異様なほど落ち着いた分析だった。

「この星の様子がおかしい」

ケンジの不安げな声が重なる。

「どういうことですか?」

メフィストス艦長は静かに問い返す。

「ウラヌス、どうだ何かわかるか?」

無機質な声が即座に応答する。

「はい、街がとても静かです。人がいません。物質のみ存在してます」

その報告に、メフィストス艦長は短く思案する。

「なるほど……」

ケンジは、苛立ちを抑えきれずに声が荒くなる。

「どういうことなんですか? 俺にはさっぱり……」

メフィストス艦長は低く断言する。

「あいつらは、私たちを殺すことが目的ではないようだ」

続けて、ウラヌスの補足が入る。

「はい、私たちの船が目的でした」

「船が必要というか……」

ケンジは、頭では理解したが、やはり納得はしていなかった。

「ま、その内、ハヤトが助けにくるだろうが……」

メフィストス艦長は、ケンジの逸る気持ちを沈める。

しかし、静かな違和感がウラヌスより提示される。

「この星には、あの異星人だけではないと思います」

そして、メフィストス艦長は結論付ける。

「そうだな。とても不可解だ」

ハヤトは地表に降り立った瞬間、足を止めた。

異様な静寂が、空気そのものを支配していた。

隣で分析を続けていたガイアが、わずかに声を強める。

「おかしいです。地上に生命反応がありません」

ハヤトは無人の街を見渡しながら呟く。

「すぐそこに街があるが、ゴーストタウンなんだろうか?」

ガイアより即座に否定が入る。

「いえ、というより、地表ではない場所に生存している可能性があります」

ハヤトは少し考える。

「この星に何かがあったと考えられるな」

「そうです。でも、放射能の反応はありません」

ハヤトは、短く結論を出す。

「そうか。地下だな。たぶん」

だが、制約がある。

「電波を遮断する鉱物が含まれていて、地下をサーチすることができません」

ハヤトは前を見据える。

「なら、あの街に行ってみるしかないな」

そのころ、異星人の親分は、バーナード星の王に謁見していた。

「とうとう戦艦が手に入ったか?」

王は、異星人の親分に確認した。

「はい、王様。これでやっと、この星から逃げれるかと」

この星の王は、この星から脱出しようと考えていたのだ。

「早くしないとな。また、あれが襲ってくるかもしれん」

王は脱出を急いでいた。

「王様。で、例のものは?」

親分は王に報酬の約束を迫った。

「わかっておる」

王は怪訝そうに答える。

「この星を出てからだ」

「では、ドックでお待ちしております」

親分は、地下都市の王宮から出ていった。

「あいつらを処分しとけ」

王は近衛兵に命令した。

「は、かしこまりました」

王は、明らかに何かを隠していた。

「こうなってはしかたがない」

「あんなことさえなければ……」

ある廃ビルの中――

ハヤトは一人の少年を見つけ、少し身をかがめて声をかけた。

「あ、ちょっと、君!」

少年は振り返り、警戒と好奇心を混ぜた視線で言う。

「ん、何?」

「って、あんた、この星の人じゃないでしょう?」

彼は軽く肩をすくめる。

「どうしてわかった?」

少年は小さく笑う。

「そんな格好してる人はいないからね」

彼は、わずかに安心したように言う。

「なるほどね。俺は地球という惑星から来たんだ」

少年の目が輝く。

「じゃあ、僕達を助けに来てくれたんだね?」

彼は真剣な眼差しに変わる。

「この星で何があったんだ?」

「他の人達はどこにいる?」

少年は即答する。

「みんなは、地下都市で生活してる」

隣でガイアが静かに頷く。

「やはりそうでしたか」

ハヤトは一歩踏み出す。

「案内してくれるか?」

少年は迷いなく頷く。

「ん、いいよ。付いて来て」

ハヤトとガイアは、少年に連れられて地下都市に行った。

ハヤトは、地下で生活している多くの人達を見た。

ハヤトは、少年の両親のところに案内された。

「この人が、他の星から来た人だよ」

少年は父と母にハヤトを紹介した。

「ずっと、お待ちしていました」

少年の父が頭を下げて言った。

「どういうことですか?」

ハヤトが問うと、少年の母が悲しそうに答えた。

「私たちの星は、とてつもない化け物に襲われたんです。軍隊も全く歯が立ちませんでした。
 多くの兵士たちが殺されました。それで、私たちは街を捨てて地下に逃げ込んだんです」

「ずっと、密かに通信で救助を呼びかけていました」

少年の父が、そう言うと、

「近隣の惑星からは、救助を拒否されました」

少年の母が絶望感を持っていたことを話した。

「なぜ?」

ハヤトは、真相を確かめたかった。

「あれは、人智を遥かに越えている魔物だからです」

「通常の科学兵器では太刀打できません」

と少年の母が真相を語った。

「じゃあ、俺たちが来たことも、そいつにもう知れてるかもな」

ハヤトは、冷静に現状を分析した。

「すぐに攻めてくることは十分考えられます」

ガイアがハヤトに告げる。

「それと、俺たちの仲間の船がどこかにあるはずだが?」

ハヤトは、少年の父に尋ねた。

「ああ、それなら、たぶんわかります」

「私の息子に案内させます」

少年の父と母が語る震える声が、その記憶の重さを物語っていた。

と、そのとき大きな地響きが起こった。

「やつらが近付いて来ています」

少年の父がハヤトに告げた。

「早くしないとやばそうだな」

ハヤトは通信機でシルビアに交信した。

「シルビア、やばそうな敵がこの星に近付いてる」

『わかったわ。で、ペガサスフォースは?』

「居場所がわかった。これから救出に行く」

ハヤトは少年に案内されて、地下都市の外れにある解体工場のドックに侵入した。

「ありがとう。君は、ここで隠れていて」

「よし、ガイア行くぞ」

「はい、キャプテン」

ハヤトは解体工場のドックにいる異星人たちを睨みながら威嚇して言った。

「おい、お前たち、動くんじゃないぞ。死にたくないだろ?」

「ガイア、頼んだぞ」

と、そこへ、王の近衛兵までもが現れた。

「早く船を奪え」

近衛兵隊長が兵隊たちに命令した。

「な、なんだと! あの王め!」

親分は王に裏切られた苛立ちを隠せなかった。

「お前には、もう用はない」

近衛兵隊長が親分を威嚇した。

「何? 仲間割れか?」

ハヤトは、近衛兵たちを峰打ちで気絶させていった。

解体倉庫の中――

「ん、なんか、外が騒がしくなってるな」

ケンジは、外で何かが起きていることに気付いた。

解体倉庫のすぐ外――

「ケンジ、生きてるか?」

中から必死な声が返る。

「先輩、ここですよ!」

メフィストス艦長の落ち着いた声が続く。

「そろそろ出るか」

ケンジの戸惑う声。

「え?」

メフィストス艦長の短い命令。

「ウラヌス」

次の瞬間、扉が勢いよく粉砕される。

駆け寄りながら確認する。

「無事ですか? みなさん」

ガイアが、ケンジたちを助けにきていた。

再会の直後、メフィストス艦長は釘を刺すように言う。

「ハヤト、その人たちを殺すんじゃないぞ」

ハヤトは力強く頷く。

「ああ、わかってる」

その時——

地が裂けるような振動。

恐怖に満ちた声が響く。

「あいつら何なんですか? 親分」

怒鳴り返す声。

「しかし、船を渡すわけにはいかない」

次の瞬間、爆音と地響きが起き、地下都市の一部が崩壊した。

“あれ”が来た。

ハヤトは直感で理解した。

これは、今までの敵とは違う。

メフィストス艦長は即座に命じる。

「ケンジ、早く船を出すぞ」

力強い返答が返る。

「ラジャー!」

救出は成功した。

だが――

それは、より大きな戦いの始まりに過ぎなかった。

銀河の深淵から迫る、未知の脅威。

彼らは今、その入口に立っている。

つづく

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