謎の美少女 後編
マンションの扉が開いた瞬間、
シルビアの目の前に現れたのは、柔らかな微笑みを浮かべた少女だった。「シルビア様……こんにちは。お久しぶりです」
メアリー・グッドウィル。
金色の長い髪を揺らしながら、彼女は嬉しそうに頭を下げた。
シルビアも微笑んだ。
「メアリー、こんにちは。本当に久しぶりね」
メアリーは、ぱっと表情を明るくした。
「あっ、どうぞ。中へお入りください」
そう言って、扉を大きく開け、シルビアを室内へ案内した。
部屋の中は、メアリーらしい空間だった。
壁やカーテンは淡いパステルカラーで統一され、柔らかな雰囲気に包まれている。
窓際には大きな観葉植物が置かれ、キッチンのテーブルには白い花――
かすみ草が飾られていた。
戦争の爪痕が残る地球とは思えないほど、穏やかな空間だった。
その時だった。
「ワンワンワン!」
突然、小さな子犬が駆け寄り、シルビアに向かって吠え始めた。
メアリーが、慌てて声をかける。
「ルナ、だめよ。吠えちゃ」
子犬は一瞬きょとんとしたあと、しょんぼりと耳を下げた。
「クゥ~ン……」
そして、メアリーの足元へすり寄ってきた。
シルビアは思わず微笑んだ。
「元気な子犬ね」
メアリーは、優しくルナを撫でながら言った。
「ええ。でも、この子も戦いの犠牲者なんです」
シルビアは驚いた。
「犠牲者……?」
メアリーは、静かに語り始めた。
「地球が戦火に包まれた時……瓦礫の中で見つけたんです」
「全身傷だらけで、ほとんど息もしていなくて……」
「見つけた時には、もう瀕死でした」
シルビアは言葉を失った。
こんな小さな命まで――
戦争は容赦なく奪っていく。
その事実が、彼女の胸に重くのしかかった。
銀河のどこかでは、今も戦いが続いている。
シルビアは強く思った。
――早く終わらせなければ。
すべての戦いを。
これ以上、犠牲を増やさないために。
メアリーはキッチンへ向かい、コーヒーを用意した。
「シルビア様、どうぞ」
湯気の立つカップを差し出す。
二人はソファに座り、しばらく穏やかな時間を過ごした。
やがて、シルビアが尋ねた。
「メアリー、今は何をしているの?」
メアリーは、少し照れたように頬を赤らめた。
「夢をかなえるために……レッスンを受けているんです」
シルビアは微笑んだ。
「確か……アイドル歌手になることだったわね?」
メアリーは、嬉しそうにうなずいた。
「はい、そうです」
その笑顔は、とても純粋だった。
これから、戦場へ向かう人物とは思えないほどに。
シルビアは思った。
――本当にこの子を連れて行っていいの?
直接、聞こうとした、その時だった。
ピンポーン。
インターフォンが鳴った。
メアリーが立ち上がる。
「誰かしら?」
「すみません、ちょっと見てきます」
彼女は玄関へ向かった。
「はーい、どちらさまですか?」
外から男性の声が聞こえた。
「シルビアと一緒に来たハヤトといいます」
メアリーは、すぐにドアを開けた。
そこに立っていたのは――
シルビアと同じ軍服を着た青年だった。
整った顔立ち。
落ち着いた雰囲気。
メアリーは、思わず息を呑んだ。
――素敵な人……
まるで、映画の主人公のようだった。
思わず、見とれてしまう。
しばらく、その場で立ち尽くしていた。
ハヤトが、少し困った顔で声をかけた。
「あの……」
メアリーは、慌てて我に返った。
「あっ、すみません!」
「どうぞ、お入りください」
彼女は、ハヤトをリビングへ案内した。
そして、ハヤトにもコーヒーを出し、三人はソファに座った。
シルビアが、不思議そうに言う。
「ハヤト、どうしてここに?」
ハヤトは、少し照れたように頭をかいた。
「いや……ちょっと心配でさ」
「新しい仲間が、どんな子なのか見ておきたかったんだ」
そして、続けた。
「メフィストスが、これからの戦いにどうしても必要だって言うくらいだからな」
シルビアが慌てて言った。
「ハヤト!」
ハヤトはその瞬間、メアリーが目の前にいることを思い出した。
「あ……」
バツが悪そうに頭をかく。
メアリーは、少し微笑んだ。
「もしかして……」
「そのことを聞きに来たんですか?」
シルビアは静かにうなずいた。
「ええ、そうなの」
「あなたは、戦いを好まないはず」
「なのに、今回の作戦に参加するって、聞いたから……」
メアリーは少し黙った。
そして、静かに言った。
「私は……今でも戦いは怖いです」
俯いたまま続ける。
「でも……」
「私は、たくさんの戦場を見ました」
「たくさんの命が、消えていきました」
声が震えた。
「その中には……子供たちもいました」
「目の前で爆発に巻き込まれて……」
「私は怖かったんです」
「本当に怖くて……」
彼女は震える腕を、もう一方の手で強く握りしめた。
「でも……」
「もし、私の力で、少しでも悲劇を減らせるなら」
「怖くても、やらなければならないと思ったんです」
部屋は静まり返った。
ハヤトは言葉を失った。
――俺はこの子を甘く見ていた。
彼女は、ただの少女ではない。
真剣に悩み、考え、そして決断していた。
その覚悟に、ハヤトは胸を打たれた。
シルビアも、また同じ思いだった。
かつて、ハイデビロン帝国にいた頃、彼女を巻き込まなくてよかったと何度も思った。
だが今――
彼女を連れて行かなければならない。
その現実が、胸を締めつけた。
シルビアは静かに尋ねた。
「メアリー」
「それじゃあ……私たちと一緒に来てくれるの?」
メアリーは迷いなく答えた。
「はい」
「行きます」
そう言ったあと、彼女はふとハヤトを見た。
そして、少しだけ照れたように微笑んだ。
どうやら、彼女は――
ハヤトのことが気になるらしい。
もしかすると、一目惚れかもしれない。
これから始まる戦いの中で、この小さな恋はどんな未来を迎えるのだろうか。
そして、メアリーには、これから新たな仲間たちとの出会いが待っている。
その先に待つのは――
かつての銀河大戦をも超える、巨大な戦い。
彼女の前途多難な運命が、今まさに動き始めようとしていた。
つづく