再び地球へ
銀河連邦軍基地の司令室――
整然と並ぶ将校たちの中を、一人の男がゆっくりと歩いてきた。
メフィストスだった。
かつて、ハイデビロン帝国最強の艦隊を率いた将軍。
しかし今、彼が身にまとっているのはハイデビロン軍の軍服ではない。
銀河連邦軍の将官服だった。
メフィストスはハヤトの前で立ち止まり、軽く帽子を上げるようにして挨拶した。
「やぁ、ハヤト君じゃないかね。ごきげんよう!」
どこか、芝居がかった口調だった。
ハヤトは思わず眉をひそめた。
「メフィストス……なぜ、あなたがここに?」
メフィストスは楽しそうに笑う。
「まあまあ、そう警戒することはない」
「今回は、銀河連邦軍に提督として任命されたのでね。極秘任務の件で来たわけだ」
そして、わざと意味深に肩をすくめた。
「だが、詳しい話は、また今度にしておこうか……」
ハヤトは黙っていた。
胸の奥に、得体の知れない不安が広がっていた。
嫌な予感がする。
新たな敵の出現は、すでに覚悟している。
だが、これ以上の悲劇だけは起きてほしくなかった。
その時だった。
グラハム中将が司令室の中央に進み出た。
「総員、整列!」
将校たちが一斉に姿勢を正す。
グラハム中将は、この特殊任務の作戦指揮官だった。
彼は、ゆっくりと室内を見渡し、静かに口を開いた。
「すでに知っている通り、我々は先の銀河大戦で帝王キング・バアルを打ち倒した」
「そして、宇宙は、ひとまず平和を取り戻した」
その声には誇りがあった。
しかし、次の瞬間、その表情は厳しくなる。
「だが、すべてが終わったわけではない」
司令室の空気が引き締まる。
「現在、ハイデビロン人の母星アルマーズ、そして、他の惑星でも戦闘が続いている」
「銀河連邦は、これ以上の犠牲を出さないために、
残党勢力を完全に制圧する作戦を開始する」将校たちの視線が集まる。
「そして、その重要な任務が……」
「ここにいる我々の部隊に託された」
グラハム中将は言葉を区切り、後ろに立つメフィストスへ視線を送った。
「メフィストス准将」
メフィストスが一歩前に出た。
「では、私から説明しよう」
司令室の大型スクリーンに銀河地図が映し出される。
「今回の作戦では、私の新型宇宙戦艦アグライア号」
「そして、スターフォースの新型宇宙戦艦ダイダロスゼノン号」
「この二隻が共同で出撃する」
スクリーンに、ペガサス銀河が映し出された。
「目的地は、ペガサス銀河の惑星アルマーズ」
メフィストスは静かに言った。
「今回の任務は、極めて危険なものになるだろう」
その言葉に、将校たちの間に緊張が走る。
だが同時に、士気も高まっていた。
その中で、シルビアだけは違った。
彼女の瞳には、涙が浮かんでいた。
アルマーズ――
それは彼女の故郷だった。
ハヤトは、そっと彼女の肩に手を置いた。
「シルビア」
そして、静かに言う。
「行こう」
「君の惑星、アルマーズへ」
シルビアは涙をぬぐい、微笑んだ。
「ええ……そうね」
「行きましょう。アルマーズへ」
その様子を見ていたメフィストスが口を開いた。
「ハヤト君」
ハヤトが振り向く。
「君は先の大戦で、ガイアを失ったんだったな?」
ハヤトは静かに答えた。
「ええ」
メフィストスは続ける。
「今、残されたのは君だけだ」
「だが、この先の戦いは、さらに危険になる」
シルビアが口を開いた。
「それでも、私たちは行かなくてはならないの」
「アルマーズへ」
メフィストスは静かにうなずいた。
「君たちの気持ちは、理解しているつもりだ」
「だからこそ……」
彼は司令室の入口に視線を向けた。
「君たちをサポートする仲間が必要になる」
ハヤトは首をかしげる。
「それは……?」
メフィストスは、にやりと笑った。
「入り給え」
「ガイア」
その瞬間だった。
司令室の扉がゆっくりと開いた。
そして――
一人のアンドロイドが中に入ってきた。
ハヤトの目が見開かれる。
「まさか……!」
そこに立っていたのは――ガイアだった。
キング・バアルとの戦いで、確かに破壊されたはずの存在。
しかし今、彼は確かに、そこに立っていた。
ガイアは静かに敬礼した。
「お久しぶりです」
「キャプテン。シルビア殿」
シルビアは、信じられないという表情で言った。
「ガイア……あなたは破壊されたはずじゃ……」
メフィストスが笑う。
「ははは、無理もない」
「確かにガイアは、あの戦いで破壊された」
「だが、銀河連邦軍は、彼の残骸を回収していた」
スクリーンに修復作業の映像が映る。
「保管されていたデータープログラムを元に再構築したのだ」
「そして、我々ハイデビロンの技術が、それを可能にした」
ハヤトは深く息を吸った。
そして、笑った。
「そうか……!」
「また、よろしく頼むよ、ガイア!」
ガイアは静かにうなずいた。
「はい、キャプテン」
「こちらこそ」
シルビアも微笑む。
「本当に良かったわ」
「よろしくね」
「はい」
その再会を見守っていたメフィストスが再び話し始めた。
「さて」
「実は、これから君たちに、まず行ってもらいたい場所がある」
ハヤトは聞いた。
「どこですか?」
メフィストスは答えた。
「地球だ」
シルビアが驚く。
「地球?」
「なぜ、そこへ?」
しかし、その瞬間、彼女は何かに気づいた。
そして、メフィストスを見つめた。
「もしかして……」
「彼女を?」
メフィストスは、ゆっくりうなずいた。
「そうだ」
「彼女を新チーム、ペガサスフォースのメンバーに迎える」
シルビアは少し驚いた。
「でも、彼女は……」
「本当に承知したの?」
メフィストスは軽く笑った。
「ああ」
「すでに了解済みだ」
それ以上は言えなかった。
彼女が決断したのなら、止めることはできない。
だが、シルビアの胸には、不安が残っていた。
これから始まる戦いは――きっと、これまで以上に危険になる。
その後――
スターフォースチームは再び集結した。
ハヤト。
シルビア。
そして、復活したガイア。
三人は改修された新型宇宙戦艦ダイダロスゼノン号に乗り込んだ。
巨大なドックのハッチが開く。
艦橋の窓の向こうに、青い地球が遠く輝いていた。
新しい仲間を迎えるため――そして、新たな運命へ向かうために。
ダイダロスゼノン号は、静かに火星基地を離脱した。
目的地は――地球。
つづく