SF小説 銀河大戦

銀河大戦 第41話

つかの間の休息

帝王キング・バアルとの激戦から数日後。

火星軌道上に建設された銀河連邦軍基地は、久しぶりに静かな時間を取り戻していた。

無数の艦船が停泊する巨大ドックの外では、赤い火星の地平線がゆっくりと流れている。

戦いの余韻を残したまま、基地はどこか重い空気に包まれていた。

ハヤトたちもまた、長い戦いの疲れを癒すため、この基地に滞在していた。

しかし、それは本当に、つかの間の休息にすぎなかった。

その頃、遠く離れたハイデビロン帝国の首都バビロニアでは、
銀河の歴史を大きく変える出来事が起きていた。

銀河連邦とハイデビロン帝国の間で、正式な和平条約が締結されたのである。

長く続いた戦争は、ひとまず終結した。

ハイデビロン帝国は形式上「ハイデビロン首長国」と改名し、
コロニー首長国連合へ加盟することとなった。

ただし、その体制は銀河連邦の厳重な監視下に置かれる。

そして、新生国家の初代首長には――ディアマンテスが就任することになった。

だが、銀河に真の平和が訪れたわけではない。

帝王キング・バアルは滅びものの、
彼に従っていた軍勢は完全に消滅したわけではなかった。

各銀河では、今なお残党勢力が暗躍し、惑星侵略を続けている。

戦争の火種は、まだ銀河のあちこちに残されていた。

そのため、銀河連邦では、新たな作戦が計画されていた。

それは――シルビアの母星、惑星アルマーズ救援作戦である。

このミッションを遂行するため、ハヤト、シルビア、ガイアのスターフォースチームに加え、
新型宇宙戦艦アグライア号に乗艦する新たなメンバーが招集されることになった。

目的地は、ペガサス銀河。

それは、未知と危険に満ちた、新たな戦場であった。

基地の展望デッキ――

巨大な窓の向こうには、赤い火星が静かに輝いている。

ハヤトとシルビアは、その景色を並んで眺めていた。

ハヤトは静かに口を開いた。

「シルビア。俺が、お前の惑星へ行く」

その言葉に、シルビアは驚いたように振り向いた。

「ハヤト、それは無理よ」

彼女は首を横に振る。

「帝王キング・バアルが消滅しても、私の惑星では、まだ戦いが続いているの。
 残党勢力が暴れているわ」

シルビアの表情には、複雑な思いが浮かんでいた。

「そんな危険な場所に、あなた一人で行くなんて……」

ハヤトは黙っていた。

だが、その目には、決意の光が宿っていた。

その時だった。

背後から、低く落ち着いた声が響いた。

「ハヤト。相変わらずだな」

二人が振り向くと、そこに立っていたのは――ディアマンテスだった。

ハヤトは目を見開く。

「ディアマンテスか? 久しぶりだな」

そして、少し首をかしげる。

「それより、どうしてここに?」

ディアマンテスは肩をすくめた。

「なんだ、聞いていなかったのか?」

そして、静かに言う。

「私は新生ハイデビロン首長国の首長を務めることになった」

ハヤトは少し驚いたような表情を浮かべたが、すぐに笑った。

「そういうことか。おめでとう」

ディアマンテスは片眉を上げる。

「ん? 意外か?」

「いや、そういうことじゃない」

「そうか。まあいい」

ディアマンテスは短く笑うと、話題を変えた。

「それよりも、お前たちは行くのか?」

ハヤトは即答した。

「ああ。そのつもりだ」

その瞬間だった。

ディアマンテスは突然、ハヤトの腕を掴んだ。

そして、シルビアから少し離れると、彼の耳元で小声でささやいた。

「ならば……」

その声には、どこか父親のような響きがあった。

「姪のシルビアのことを、よろしく頼む」

ハヤトは一瞬驚いたが、すぐにうなずいた。

「ああ」

その様子を不思議そうに見ていたシルビアが、首を傾げる。

「ディアマンテス、何を話しているの?」

彼女は少し頬を膨らませて問い詰めた。

しかし、ディアマンテスは、わざとらしく肩をすくめた。

「いや、たいしたことではない」

それ以上は語ろうとしない。

シルビアが、さらに追及しようとした、その時――

基地内に、突然サイレンが鳴り響いた。

甲高い警報音が廊下に反響する。

「緊急警報?」

ハヤトとシルビアは顔を見合わせた。

二人はすぐに走り出した。

ディアマンテスをその場に残し、司令室へ向かう。

しかし――

司令室のドアを開いた瞬間、二人は思わず足を止めた。

中では誰も慌てていない。

将校たちは落ち着いた様子で話し合いをしている。

アンナ司令官も腕を組み、何かを議論していた。

ハヤトは困惑した。

「何が起きているんだ……?」

その時、司令室に見慣れない人物がいることに気づいた。

その人物は銀河連邦軍のグラハム中将と話をしていたが、
ハヤトたちに気づくとゆっくりと歩み寄ってきた。

ハヤトの目が大きく見開かれる。

そこにいたのは――

かつて、ハイデビロン帝国最強の艦隊を率いていた男。

メフィストス将軍だった。

しかし、今の彼の制服は、ハイデビロン軍のものではない。

銀河連邦軍の将官服だった。

メフィストスは静かに言った。

「久しぶりだな、ハヤト」

そして、続ける。

「本日付で、私は銀河連邦軍准将――提督に就任した」

その言葉に、司令室の空気がわずかに揺れた。

それは、平和を取り戻したばかりの銀河に――

何か新しい動きが始まろうとしていることを示していた。

それは果たして、真の平和への第一歩なのか。

それとも――

新たなる銀河大戦の幕開けなのか。

宇宙は、まだ静かではなかった。

つづく

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