陰謀
ハイビロン帝国では、新たな作戦がすでに動き始めていた。
帝国宰相エラントラは、静かな声で命じた。
「ゲオルギオス、われわれに敵対する国家の1つに脅しをかけよ。
そこに、スターフォースへ攻撃させるのだ。
奴らも、まさか味方から攻撃されるとは思うまい」その前に立つゲオルギオスは、ゆっくりと頭を下げた。
「それは、すばらしい作戦……すぐに作戦を開始いたします」
そう言うと、深く一礼してその場を下がった。
ゲオルギオスが目を付けたのは、政情が不安定で軍事力も弱い小国――
スコルピオン首長国だった。
スコルピオン首長国の首長、サトリ・アラムーンは、
突然届いたハイビロン帝国からの通信に驚愕していた。通信は一方的なもので、こちらからの応答は一切受け付けない。
その内容は、あまりにも冷酷なものだった。
――我々に従い汲みせよ。
――そして、スターフォースを攻撃せよ。
――さもなくば、大艦隊をもって、お前達のコロニーを破壊する。通信が途絶えたあと、執務室には重い沈黙が落ちた。
秘書官が、思わず声を上げた。
「首長、奴らの言いなりになるんですか? どうか、お考えを」
アラムーン首長は険しい顔で答えた。
「だが、奴らがこのまま黙っているはずがない。
そうなれば、このコロニーなど……」「ですが……」
「よく考えてみろ。お前も奴らの力は知っているではないか……」
秘書官は言葉に詰まった。
「そ、それは……そうですが……」
首長は深く息を吐いた。
「どうしようもないのだ。国民を守るのが私の仕事なのだ」
「首長……」
やがて、苦渋の決断を下すように言った。
「わが国の防衛軍にスターフォース攻撃命令を出すのだ」
秘書官はうつむいたまま答えた。
「はい、分かりました……」
悔しそうな表情を浮かべたまま、秘書官は首長室を出て行った。
執務室に残されたアラムーン首長は、力なく椅子に身を沈めた。
そして、誰にも聞こえない声で呟いた。
「悪者になるのは、私1人でいい……」
やがて、スコルピオン首長国から二隻の戦艦が発進した。
その艦隊は、近づいてくるスターフォースに向かい、突然攻撃を開始した。
ダイダロス号のブリッジが緊張に包まれる。
「な、なんだ? いきなり……俺達は味方だぞ!」
シルビアも驚いたように言った。
「どういうことかしら? まさか、もうすでにハイビロン帝国に……」
デスパンドラが静かに状況を見極めていた。
「調べた方が良さそうですね。
私が直接、スコルピオンに潜入して真相を確認して来ます」シルビアがすぐに制止する。
「デスパンドラ、それは、危険すぎるわ」
だが、デスパンドラは落ち着いて答えた。
「シルビア様、私は大丈夫です。そう簡単には、やられませんから」
ハヤトはうなずいた。
「悪い、頼むぜ」
「はい」
ハヤトが振り向く。
「ガイア、準備を」
「ラジャー!」
ガイアが小型偵察機コンゴウの発進準備を整えると、
デスパンドラは機体に乗り込み、そのままスコルピオンへと発進した。
その頃、スコルピオンでは大混乱が広がっていた。
自国の軍が、スターフォースに攻撃している――
その事実が瞬く間に国中へ広がったのである。住民たちは狼狽した。
本来、自分たちを守ってくれるはずのスターフォースに、自国軍が攻撃しているのだ。
宇宙神秘教の信者でもある多くの住民たちは神殿へ集まり、神に祈りを捧げていた。
この意味のない戦いが、早く終わるようにと。
その光景は町の至る所で見られた。
だが、その一方で――
汚職政治家たちは愛国心を煽り、戦禍を拡大させようとしていた。
裏社会へ大量の武器が横流しされ、町は次第に暴徒で溢れていく。
財産を持って逃げようとする貴族に銃を向ける者。
金品を奪う者。
人々の叫び声と銃声が、街中に響き渡っていた。
まさに、町は戦場と化していた。
その惨状の中へ、デスパンドラの偵察機が降り立った。
彼女は町の光景を見て、思わず声を漏らした。
「これは、なんてこと!? 酷い……」
そのとき、目の前で悲劇が起きた。
小さな子供を連れて逃げていた母親が、流れ弾に倒れたのだ。
残された子供は、その場に倒れた母親にしがみつき、声を上げて泣いていた。
デスパンドラはすぐに駆け寄り、幼い子供を抱きかかえると、
その場を離れ安全な場所まで走った。そこには女子供や老人たちが集まり、怯えて身を寄せ合っていた。
デスパンドラは町を見渡し、怒りを込めて言った。
「この国の首長は、いったい何をしているのだ?」
彼女は、そのまま首長府へ向かった。
建物に到着すると、迷うことなく首長の部屋へと入った。
そこには、椅子に座り込み、力なくうなだれているアラムーン首長の姿があった。
デスパンドラは鋭く問いただした。
「首長、なぜ我々スターフォースを攻撃するのですか?
それに、この町の有り様はどういうことですか?」首長は驚いたように顔を上げた。
「それは……奴らに……それより、町が何だって?」
「知らないのですか? 町は、一部過激派の暴徒で、今戦場と化しています。
なぜ、何もしないのですか?」首長は愕然とした。
「町が、そんなことになっているとは……」
デスパンドラは続けた。
「何があったんですか? ハイデビロン帝国から何か脅されたんですね?」
首長は観念したように答えた。
「ああ、実は……奴らに脅されているのだ。スターフォースを攻撃しろと」
デスパンドラは静かにうなずいた。
「やはり、そうでしたか……では、まずは町の暴徒を大至急、静めて下さい」
デスパンドラは、ある策を講じた。
首長が国民を見捨ててコロニーから脱出するという偽情報を流したのである。
すると案の定、首長を狙う刺客たちが次々と現れた。
デスパンドラは彼らを包囲し、次々と拘束していった。
さらに、首長から国防軍一個師団を借り受け、暴動の鎮圧を開始した。
敵の侵略に便乗していたタカ派の汚職政治家や過激派グループは、
次々と拘束されていった。
やがて、町の広場に人々が集められた。
デスパンドラは群衆を前に立ち、声を張り上げた。
「我々はハイビロン帝国からの侵略によって、
大切な人を亡くし、多くの悲しみ、苦しみを味わってきた。
だが、これに屈すると言う事は、今までの戦いが無意味なものとなってしまう。
亡くなった人が望んでいた事は何なのか?
皆が平和で幸せに暮らせる世界ではなかったのか?
首長も今回の事に大変心を痛めている。今一度、考えてみて欲しい」その言葉は、人々の心へ静かに染み込んでいった。
武器を持っていた者たちは、次々と足元に武器を落としていく。
そして――
スターフォースを攻撃していた国防軍にも、攻撃中止命令が出された。
ダイダロス号のブリッジ。
ハヤトが小さく笑った。
「デスパンドラの奴……やってくれたな」
シルビアも安堵の表情を浮かべた。
「ええ、良かった……」
しばらくして、デスパンドラがダイダロス号へ帰還した。
「シルビア様、ハヤト殿、ご無事でしたか?」
ハヤトが笑って答える。
「ああ、デスパンドラ、お前のおかげで助かったぜ。
あいつらを攻撃するわけにもいかなかったから、
ずっと防御しっぱなしだったからな」シルビアもうなずいた。
「デスパンドラ、本当に、あなたのおかげで助かったわ」
デスパンドラは静かに報告した。
「首長とも話がつきました。後は、彼がしっかりとやってくれると思います」
ハヤトは感心したように言った。
「そこまで……さすが、元敏腕将軍だな」
デスパンドラは少し照れたように答えた。
「いえ、あなた方のために、何か役に立ちたかったので……」
今回の戦いで、スターフォースのハヤト達は思っても見なかった戦いを余儀なくされた。
だが、デスパンドラの活躍によって、大きな人的被害を出すことなく事態は収束した。
彼らの戦いが終わる日は、果たして訪れるのだろうか……
つづく