SF小説 銀河大戦

銀河大戦 第33話

それぞれの思惑

激戦の余韻は、まだダイダロス号の艦内に残っていた。

ハイデビロン帝国艦隊との戦闘で、ハヤトは禁断のリミッターを外し、
必殺技デストラクションフラッシュを放った。

その直後、彼は力尽きるように倒れ、シルビアの腕の中で意識を失った。

シルビアとデスパンドラは、すぐにハヤトを医務室へ運び込んだ。

ダイダロス号の医務室には、最新鋭の医療システムが備えられている。

中央には透明な治療用カプセルベッドが設置され、
その周囲にはホログラムドクターが常時待機していた。

コンピュータが生成する医師の立体映像であり、
銀河連邦軍病院の医療ネットワークと接続されているため、遠隔治療も可能である。

このシステムによって、ハヤトには完全な治療が施された。

だが、彼は二日間、まったく目を覚まさなかった。

そして三日目――

治療カプセルの光が静かに弱まり、ハヤトはゆっくりと目を開いた。

体を起こそうとした彼を見て、傍らにいたシルビアが慌てて声をかけた。

「ハヤト、もう大丈夫なの? まだ、寝てなきゃ……」

ハヤトは軽く笑みを浮かべた。

「大丈夫だ。シルビア、心配かけたな」

「ハヤト、無理しないで」

そう言って、シルビアはハヤトの肩をそっと押し、再びベッドへ横たえさせた。

しばらくして、ハヤトは天井を見上げながら静かに尋ねた。

「シルビア、俺は、どのくらいここに寝ていたんだ?」

シルビアは答える。

「今日で3日目よ。ずっと意識が戻らなくて……」

その瞬間、シルビアの胸に張り詰めていた緊張の糸がほどけた。

ずっと泣くまいと堪えていた感情が溢れ、頬を一粒の涙が伝い落ちる。

その様子を見て、デスパンドラが静かに言った。

「シルビア様は、ハヤト殿を心配して、ずっと看病しておられましたから……
 きっと、緊張の糸がほぐれたのでしょう……」

ハヤトは申し訳なさそうに頭をかいた。

「みんな、心配かけてすまない。もう大丈夫だ」

医務室には、ようやく安堵の空気が広がった。

そのとき、艦内通信が鳴った。

ガイアから医務室へのコールだった。

「キャプテン、クロッペンシュタイン博士からの伝言です」

続いてメッセージが再生される。

【伝言:ハヤトくんへ、今後、リミッターを外す事を禁止する。
 君の命に危険が及ぶからだ。】

「以上です」

ガイアの報告を聞き終え、ハヤトは苦笑した。

「博士、それは分かっていてやった事だ。俺は、あれでよかったと思っている。
 俺は、もう、大切な仲間を失いたくない……」

その声には、揺るぎない決意がこもっていた。

ハイデビロン帝国との戦争は、銀河各地のコロニー国家に深刻な被害を与えていた。

疲弊した国々の中には、ある考えを抱く者も現れ始めていた。

――ハイデビロン帝国に従った方が、生き延びられるのではないか。

12コロニーある中の一つ、コロニーNo.8スコルピオン首長国の首長も、
そう考える者の1人である。

元々、スコルピオン首長国は、アラムーン一族によって建てられた独裁国家であった。

その執務室では、重苦しい空気が漂っていた。

巨大な椅子にふんぞり返って座る男――
髭を生やし、鋭い目つきをした中年の男。

この国の首長、サトリ・アラムーンである。

彼はスコルピオン首長国の支配者であると同時に、
宇宙神秘教というカルト集団の教主という裏の顔も持っていた。

その前に立っているのは、若い秘書官だった。

アラムーン首長が低く言う。

「このまま戦っていても、スコルピオンを維持していくことは不可能だ。
 我が国の経済力は、長期戦ができる程に強くない。
 それに、もし銀河連邦軍が負けたら、どうなるか……」

秘書官は必死に食い下がった。

「ですが、首長、我々は、今まで長い間ハイビロン帝国に、
 一部支配され苦しめられてきたんですよ。
 それなのに……国民には、どのように申し上げるおつもりですか?」

首長は机を叩いた。

「そんな事を考えてる余裕はない!」

秘書官は、なおも言う。

「ですが、国民の中には、家族を殺された者も大勢います」

「ええい、そんな下らん事は、お前が気にする必要はない。
 お前は、ただ、私の言うとおりにすればいいのだ」

秘書官は言葉を失った。

「……」

やがて首長は苛立ったように手を振った。

「もういい。下がれ」

秘書官は深く頭を下げ、執務室を後にした。

長い廊下を歩きながら、彼は不安を押し殺すように呟いた。

「首長は、敵に取り入るとは……何をお考えなのか? このままでは……この国は……」

ふと何かを思いつき、足を止める。

「そ、そうだ。コロニー首長国連合に相談してみよう」

そう言うと、彼は通路を駆け出していった。

この報告は、やがてコロニー首長国連合の議長を通じて、
銀河連邦軍へと伝えられることになる。

――スターフォースへの応援要請として。

その報告を受けたダイダロス号のブリッジでは、デスパンドラが怒りをあらわにした。

「なんて、身勝手な国だ! あなた達は、今までこんな奴らを守ってきたのか?」

ハヤトは苦笑した。

「だけど、こんな奴らばっかりじゃないんだぜ」

シルビアも静かに言った。

「そうよ、デスパンドラ、いい人も大勢いるわ」

デスパンドラは納得できない様子だった。

「しかし……」

ハヤトは落ち着いた声で言った。

「今は、戦いで、誰も怖くて仕方が無いんだ。何かに縋っていないと……」

デスパンドラはしばらく黙り込み、やがて静かに尋ねた。

「ハヤト殿は、それで平気なのか?」

ハヤトは迷わず答えた。

「ああ」

その瞳には、揺るぎない覚悟が宿っていた。

そのころ――

遠く離れたハイビロン帝国では、新たな作戦が静かに動き始めていた。

銀河の運命を揺るがす陰謀が、ゆっくりとその姿を現そうとしていた。

つづく

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