SF小説 銀河大戦

銀河大戦 第29話

運命の勾玉とシルビア

ハイデビロン帝国内は、浮足立っていた。

誇り高き戦艦プリンシパリティ号を沈め、最強と謳われたゴッドカイザーも打倒した。

しかし、帝都の軍令塔では怒号が飛び交い、将軍たちの顔から余裕が消えていた。

その混乱の中――宰相エラントラは、静かに告げた。

「デスパンドラ。上級四将軍を率い、出撃せよ」

広間の空気が凍りつく。

「標的は、裏切り者シルビア。そして――運命の勾玉の奪還」

その名を聞いた瞬間、女将軍デスパンドラの胸がざわめいた。

シルビア。

かつて、共に剣を学び、共に帝国の未来を語った仲である。

だが今、その名は“反逆者”となった。

デスパンドラは拳を握りしめた。

「……シルビア様」

低く、震える声。

「あなたは、本当に我々を裏切られたのか」

沈黙。

やがて、彼女は顔を上げる。

「もし、それが真実なら――」

その瞳に宿るのは、覚悟。

「私自らが、あなた様を討たねばならない!」

号令が下る。

宇宙港が開き、ギャラクシー級戦艦二隻がゆっくりと浮上する。

続いて、プラネット級戦艦八隻が整列。

十隻の大艦隊。

主砲が蒼く輝き、推進炉が唸りを上げた。

帝国本軍、出撃。

目的は三つ。

謎の戦艦ダイダロス号の撃沈。
運命の勾玉の奪還。
そして、裏切り者シルビアの処刑。

艦隊は闇の彼方へと進んだ。

その頃、銀河連邦軍基地では、
ハヤト、ガイア、シルビアの三人がアンナ司令官のところにいた。

「体の方はどう?」

アンナ司令官の声は優しいが、厳しさを含んでいた。

「はい、たいしたことはないですよ。大丈夫です。ちょっと疲れただけですよ」

ハヤトは少し笑いながら答えた。

「ブレードナイトの力があれば、ハイビロン帝国なんて――」

「慢心は禁物よ、ハヤト」

アンナの表情が引き締まる。

「ハヤト、ブレードナイトの力は強すぎるのよ。
 あなたとガイアに負担がかかってしまう」

ハヤトは黙る。

「無茶だけはしちゃ駄目よ。ダイスケとトミーの為にも、
 そして、戦いで死んでいった多くの仲間達のためにも」

ダイスケとトミーの顔が脳裏をよぎった。

戦いで散っていった仲間たち。

「この戦いは、勝たなくてはならない。いいわね」

アンナの言葉は、命令ではない。

祈りだった。

「はい、分かってます」

ハヤトの声は、もう軽くなかった。

アンナはシルビアへ向き直る。

「シルビア、あなたも、これから辛い戦いになるわね」

かつての仲間と、刃を交える。

「今まで、ずっと共にしてきた仲間とも戦わなくてはならない」

シルビアは目を伏せる。

「……はい、私に迷いはありません」

だが、その瞳に迷いはない。

「私はハヤトと共に戦います。それが私の願いです」

その言葉を聞き、アンナは小さく頷いた。

「ならば――任務を伝える」

一拍の沈黙。

「ハイデビロン帝国本拠地を、直接叩く!」

ハヤトの目が燃える。

「ラジャー!」

振り向く。

「行くぞ、ガイア! シルビア!」

「ラジャー!」

三人は駆け出した。

ダイダロス号、発進。

蒼い光を引き、宇宙へ飛び出す。

航行中。

シルビアは窓の外を見つめたまま、黙っていた。

ハヤトは気づいている。

だが、声をかけるのを待っていた。

やがて――

「ハヤト、実は……」

「どうした?」

「ハイビロン帝国のことなんだけど」

ハヤトは頷く。

「気になるよね。君は――」

「違う。そうじゃなくて」

きっぱりと否定する。

一瞬の沈黙。

「私はスターフォースの一員です」

しかし、その胸の奥では、何かが軋んでいた。

運命の勾玉。

そして、まだ言えない真実。

言えば――何かが変わる。

それを恐れていた。

同じ銀河のある宙域。

デスパンドラの艦隊が進む。

レーダーに光点が浮かぶ。

「目標予測進路上に戦艦あり」

副官が告げる。

デスパンドラは静かに目を閉じる。

「シルビア様……」

再び目を開く。

そこに、迷いはない。

「全艦、戦闘準備」

戦艦十隻の砲門が開く。

気づかぬまま、帝国へ向かうダイダロス号。

迫る帝国本軍。

運命の勾玉を巡る戦いは、もはや避けられない。

そしてその先には――帝国の奥底でうごめく、さらに大きな影。

ハヤトはまだ知らない。

この戦いが、銀河の運命を大きく変えることを。

つづく

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