絶望と失意
ハイデビロン帝国地球侵略軍との激戦は、勝利という名の代償を人類に突きつけた。
要塞の崩壊と引き換えに、戦場には無数の残骸と、帰らぬ命が漂っていた。
ゴッドカイザーは、最後の瞬間まで七つ首の機械獣を食い止めた。
だが、要塞の自爆による衝撃波は、超重合体を強制的に引き裂いた。
フェニックスは宇宙空間へ弾き飛ばされ、ドラゴンとシャークは爆炎に呑まれた。
プリンシパリティ号のブリッジでは、アンナ艦長が唇を噛みしめていた。
「ガイア、コックピットを開けて」
回収されたフェニックスの残骸。
装甲は裂け、黒煙が漂っている。
ガイアが工具を操作し、変形したハッチをこじ開けた。
「……ハヤト」
内部でぐったりと倒れる青年。血に濡れたスーツ。
「生命反応は?」
「……非常に危険な状態です」
ガイアの無機質な声が、かえって残酷に響く。
「ハヤト……ハヤト……」
シルビアは首にかけた『運命の勾玉』を握りしめ、祈り続けていた。
彼女の瞳からこぼれる涙が、真空に吸われる。
「リサ、応急処置は?」
「はい、艦長。必ず助けます……!」
リサの手が震えながらも、止血と蘇生処置を施す。
「ガイア、彼をプリンシパリティ号へ搬送して」
「了解しました」
勝利の歓声など、どこにもなかった。
それは、喪失の始まりだった。
ハヤトは、火星の銀河連邦軍付属病院へ搬送された。
重傷。意識不明。生存は奇跡とされた。
そして、プリンシパリティ号もまた致命的損傷を受け、修理不能と判断された。
かつて、銀河を駆けた名艦は、その役目を終えたのだ。
病室には、静かな時間が流れていた。
シルビアは毎日、彼のもとへ通った。
「あ、アンナ艦長……」
「毎日来ているの?」
「はい……」
そこへリサも姿を現す。
「艦長もいらしてたんですか?」
アンナは、窓の外に広がる赤い火星の地平線を見つめていた。
「私の責任で……ダイスケとトミーを失ったわ」
「違います……艦長の責任では……」
リサの声は震え、堰を切ったように涙が溢れた。
「私より……艦長の方が、ずっと辛いのに……」
アンナは何も言えなかった。
沈黙。
その時。
「……ここは……」
かすれた声。
「ハヤト!」
シルビアが駆け寄る。
「おれは……生きているのか?」
「よかった……本当に……」
涙で言葉にならない。
ハヤトはゆっくりと視線を巡らせた。
「艦長……ダイスケとトミーは?」
アンナは、まっすぐ彼を見つめた。
「あの戦いで、戦死したわ」
病室の空気が凍る。
「……そうですか。おれだけが……生き残ったのか」
握りしめた拳が震える。
「あいつらを守れなかったのは、隊長である俺の責任です」
「違うわ」
アンナは即座に否定した。
「責任は、上官である私にある」
「いえ……」
誰の責任でもなかった。
それでも、誰もが自分を責めずにはいられなかった。
数ヵ月後。
ハヤトは退院し、軍へ復帰した。
かつての彼の面影は薄れ、瞳には重い影が宿っている。
アンナは、新たな任命を告げた。
「ハヤト、あなたに、これからの任務を言うわ。
あなたは、新型宇宙戦艦〈ダイダロス号〉の艦長よ」「俺が……艦長?」
「私は責任を取った。
そして、銀河連邦軍の新設艦隊の司令官に任命されたわ。
リサも副官として同行する」ハヤトは黙って聞いていた。
「あなたの新たな任務は、コロニーNo.9――サジタリオン首長国への航行。
そこでは、“アステロイドバトラー”の極秘研究が進められている。
それがなければ、次の戦いは乗り越えられない」「了解しました」
コロニーNo.9、サジタリオン首長国。
黄道十二星座を冠する十二の人工衛星都市国家のひとつ。
平和主義の中立国であり、バイオヒューマノイド技術の最先端国家。
だが、その裏で、戦争のための新兵器が開発されている。
「それから」
アンナの声が低くなる。
「シルビアの証言により、ハイデビロン帝国の本拠地が判明した。
コロニーNo.11――アクエリオンよ」敵は、すぐそこにいる。
「さあ、ダイダロス号で出発しなさい」
「ラジャー!」
発進準備が進む。
新造艦ダイダロス号の艦橋から見える宇宙は、どこまでも静かだった。
だが、その静寂の奥に、再び燃え上がる銀河大戦の火種が潜んでいる。
ハヤトは星々を見つめる。
ダイスケとトミーの無念を胸に。
孤独な航海が始まる。
絶望と失意を越えたその先に、希望はあるのか。
ダイダロス号、発進。
つづく