決戦前夜
銀河連邦科学技術研究所・海底基地医務室。
無機質な白い光の下、シルビアは静かに横たわっていた。
生命維持モニターの微かな電子音だけが、部屋の静寂を刻んでいる。
ベッドの傍らには、ハヤトがいた。
戦闘スーツを脱ぎ、ただ一人の青年として。
やがて、シルビアのまぶたが震え、ゆっくりと開かれる。
「……ハヤト」
「シルビア……」
それ以上、言葉は続かなかった。
戦場で刃を交えた二人。
敵と味方に分かれながら、それでも消えなかった記憶。
胸が詰まり、声が出ない。
「ハヤト……私は……」
「ああ、何も言わなくていい。安心して休め」
彼の優しい声に、シルビアは安堵の微笑を浮かべ、再び静かな眠りに落ちた。
医務室の外。
「彼女の容体は?」
アンナ艦長が問いかける。
「大丈夫です」
ハヤトは少し迷ってから続けた。
「艦長……彼女を銀河連邦に引き渡すつもりですか?」
艦長は視線を落とす。
「本来ならそうすべきね。捕虜としての情報価値は計り知れない」
沈黙。
「でも……」
「分かってるわ」
アンナ艦長は静かに言った。
「しばらくは、こちらで預かりましょう。
彼女は“兵器”ではなく、一人の人間よ」「ありがとうございます」
ハヤトの胸の奥に、わずかな光が灯った。
一方、ハイデビロン帝国地球侵略要塞。
「シルビア様が行方不明です」
デスパンドラの報告に、エラントラの目が細められる。
「捕らえられた可能性が高いな」
「そうなれば、我らの要塞位置が露見する恐れが……」
「時間の問題だ」
冷酷な判断。
「地球連合軍も不穏な動きを見せております」
「ならば、決戦に備え兵力を増強せよ」
「ははっ」
要塞内部では、新たな戦力が次々と起動される。
巨大主砲の充填。防衛衛星の再配置。
機械獣群の再調整。
決戦は避けられない。
海底基地整備ドック。
「修理は完了したよ」
ジンダイジ博士が、ドラゴンキャリアーの装甲を叩く。
「ありがとうございます、博士」
「この戦いが、地球の命運を決するかもしれん。頼んだぞ、艦長」
アンナ艦長は力強くうなずいた。
医務室。
「シルビア、そろそろ、俺は行かないと」
ハヤトが静かに告げる。
シルビアは身体を起こした。
「私も連れて行って。要塞まで案内できるわ」
「だめだ。危険すぎる」
「ハヤト、私はあなたに……」
言葉は途切れる。
その時、アンナ艦長が扉の前に立っていた。
「いいわ。シルビア、一緒に来なさい」
「艦長?」
「私たちは死にに行くんじゃない。
生きるために戦うのよ。彼女もそれを望んでいる」ハヤトは拳を握りしめた。
「……分かりました」
心の中で誓う。
――必ず守る。
数時間後。
プリンシパリティ号は深海を離れ、宇宙へと浮上した。
シルビアの案内により、ハイデビロン帝国要塞の外縁宙域へ到達する。
遠方に浮かぶ、黒き人工惑星。
重力歪曲フィールドに守られた侵略の本拠。
やがて、空間が次々と歪む。
ワープアウト光。
地球連合軍艦隊が姿を現す。
量産型ハヤブサ部隊も編隊を組み、戦闘準備を整える。
通信回線が開かれる。
『全艦、最終確認。これより、ハイデビロン帝国要塞攻略作戦を開始する』
アンナ艦長は深く息を吸い、静かに宣言した。
「これは、地球の未来を懸けた戦いよ。全員、生きて帰るわよ」
窓外には無数の星々。
その静寂の中で、決戦の火蓋が切られようとしていた。
銀河大戦――
その帰趨を決する夜が、今、始まる。つづく