破滅への協奏曲
――銀河大戦の序曲、地球に鳴り響く――
ハイデビロン帝国地球侵略要塞――
それは、月軌道外縁の重力安定点に固定された、黒き人工惑星であった。恒星光を反射しない漆黒の装甲は、
あたかも、宇宙そのものに穿たれた穴のように虚空へ溶け込んでいる。地球攻略第一陣部隊の戦果報告は、
三神官の一人、エラントラを激怒させるに十分だった。「シルビア、これはどういうことだ?」
玉座の間に響く声は静かだが、その奥に宿る怒気は恒星の核融合にも等しい。
跪くシルビアは、わずかに視線を伏せた。
「スターフォースの戦闘能力は予測を上回りました。
先の戦いで、三大将校を失っております」「無能の言い訳は聞かぬ」
エラントラはゆっくりと立ち上がる。長衣の裾が重力制御床を滑った。
「これより、この地球侵略の指揮は、私が執る。
地球方面軍は、上級女将軍デスパンドラの統制下に入れ」玉座の左右に控えていた影が動く。
紅蓮の軍装に身を包んだ女将軍デスパンドラが、妖艶な微笑を浮かべて前へ出た。
「では、これより地球侵略大規模掃討作戦――《ハルマゲドン》を説明いたします」
立体星図が展開される。地球、月、軌道エレベーター、ヒノモト皇国沿岸部。
無数の赤い光点が増殖し、地球を包囲する。
「第一段階。軌道制圧。第二段階。重力爆雷による沿岸都市の壊滅。
第三段階。バイオヒューマノイド部隊による地上制圧。
人類の精神を折り、従属種へと再定義する」冷徹な宣告。
それは、もはや侵略ではない。文明の再編であった。
シルビアは、無言のまま星図を見つめていた。
胸の奥で、説明不能な微かな痛みが、脈打っていることに気づきながら――。
一方、銀河連邦科学技術研究所・地球基地。
地下深くの統合司令室では、緊迫した空気が漂っていた。
「しかし、驚いたな。異星人の中に、人間と同種がいるとは」
トミーの言葉に、ダイスケが腕を組む。
「ああ。理論上はあり得る。だが、偶然にしては出来すぎだ。
ハヤト、お前はどう思う?」「……何も」
短く答えるハヤト。その横顔には影が落ちていた。
アンナ艦長は、スクリーンに映る戦闘データを睨む。
「あれだけの科学力。知的生命体であることは間違いない」
ジンダイジ博士がうなずく。
「地球連合軍は、量産型超重戦闘マシンの配備を開始した。
だが、敵の正体が不明なままでは、戦略が立てられん」その時、通信士リサが声を上げる。
「艦長、クロッペンシュタイン博士より入電」
「オンスクリーン」
白髪の老科学者が映し出される。
「銀河連邦軍の密偵特殊チームから報告だ。異星人の正体が、一部判明した」
司令室の空気が凍る。
「彼らは――かつて、人類が人工惑星都市建造のために開発したロボットだ」
沈黙。
「コロニー製……?」とジンダイジ博士。
「そうだ。敵の機械獣も戦闘機もロボット。
だが、人間型は別だ。あれは“バイオヒューマノイド”。
生体遺伝子回路を組み込んだ自己進化型機械生命体だ」ダイスケが低く唸る。
「進化するロボット……」
「人類への反乱が発端と見られる。詳細は調査中だが、増援部隊を送る」
通信が切れた後、トミーが呟いた。
「なんだよ、アンドロイドだったのか……」
「厄介だな」とダイスケ。
リサは震える声で言う。
「私たちが戦っていたのは、異星人じゃなかった……?」
ハヤトは黙ったままだった。
「おい、何考えてる!」
ダイスケが胸ぐらを掴む。
「地球滅亡の危機だぞ!」
「やるってのか?」
二人の視線が激突する。
「やめなさい!」
アンナ艦長の一喝が室内を震わせた。
「二人とも謹慎!」
自室に戻ったハヤトは、暗闇の中で天井を見つめていた。
――シルビア。
彼女の瞳。戦場で交錯した一瞬の躊躇。
博士はアンドロイドだと言った。
だが、あの迷いはプログラムではない。
「本当に……俺のことを忘れたのか?」
答えはない。
その頃。
ハイデビロン帝国の新軍は、
数百隻規模の超大型艦隊を編成し、ヒノモト皇国宙域へ侵攻していた。重力推進波が空間を歪ませ、艦列がワープアウトする。
虚空が赤く染まる。
「艦長! 数百の大艦隊が接近中!」
リサの叫び。
スクリーンに映る無数の敵影。
それは、これまでの戦闘とは次元が違う規模だった。
デスパンドラの旗艦が、艦隊中央に姿を現す。
「奏でなさい。破滅の協奏曲を」
その号令とともに、艦砲が一斉に充填される。
地球を巡る空間は、いまや銀河大戦の主戦場となった。
スターフォースは、この未曾有の危機を乗り越えられるのか。
人類は滅びるのか。
それとも、機械に奪われた未来を奪い返すのか。
宇宙は、静かに次の一撃を待っていた。
つづく