小さな赤い目の恐怖 後編
リサが走り去ったあと、地下坑道には三人だけが残された。
「なんだよ、リサのやつ……」
ハヤトが不満げに呟くと、トミーが肩をすくめた。
「女性が、こんな場所に入りたがると思うか?
もう少し女性心理を学ばないとモテないぜ」「今は敵だろ、問題は」
ダイスケの一言で空気が締まる。
三人は、封鎖された地下施設の奥へと進んでいった。
コンクリートは湿り、古い配管からは水滴が落ちている。
生暖かい空気が、どこか異様だった。やがて、空間が開けた。
かつて、資材倉庫として使われていた巨大な地下空洞。
だが今は――「……おい」
トミーの声が震えた。
床一面が、蠢いていた。
無数の赤い光点。
ねずみ。
それも通常種ではない。
皮膚の一部が金属光沢を帯び、眼球には異様な赤色発光。
統制された動きで、一定方向へ群れを成している。ダイスケは即座に通信を開いた。
「艦長、聞こえますか。ダイスケです」
『ええ、状況は?』
「爆発の原因は、敵の生体工作兵器です。
ネズミの脳にマイクロチップが埋め込まれ、遠隔操作されています」『……つまり、移動式爆弾というわけね』
「はい。目撃証言と一致します」
アンナ艦長の声が一瞬だけ沈んだ。
『すぐに破壊して。これ以上、都市に侵入させてはならないわ』
「了解!」
三人は同時に飛び出した。
レーザーショットが火花を散らす。
ねずみ型兵器――コードネーム《ゴリアテ》は、
信じられない速さで分散し、再集合する。だがその時。
地下空間に不気味な共鳴音が響いた。
「……なんだ?」
ねずみたちの動きが止まる。
そして、次の瞬間、
すべてが、一点へと吸い寄せられるように集まり始めた。それは、異様な光景だった。
数百、数千の個体が重なり合い、絡み合い、
骨と機械部品が再構成される。赤い眼が、一つに集まり、巨大な単眼となる。
融合。
増殖。
再構築。やがて、それは怪物となった。
全長十五メートル。
鋼鉄と肉塊の混成生物。合体獣――《ラット・ゴリアテ》。
「やっべぇ……」
「撤退だ!」
怪物の尾が振り下ろされ、床が爆砕する。
三人は間一髪で回避し、地上へと急行。
超重戦闘マシンへ飛び乗る。エンジン始動。
重力制御フィールド展開。
「超重合体、承認!」
三機が光に包まれ、巨大な人型へと変形する。
ゴッドカイザー。
地下空洞を突き破り、地上へ出現。
ラット・ゴリアテが咆哮し、無数の金属片を弾丸のように射出する。
だが――
「サンダークラッシュ!!」
天空より落ちる蒼雷。
電磁破壊衝撃波が、怪物を包み込む。
融合体は共鳴崩壊を起こし、内部チップが連鎖爆発。
やがて崩れ落ち、ただの黒い残骸となった。
静寂。
焦げた臭気が漂う。
ハヤトはコックピットで息をついた。
「……マジでやばかった」
帰還後。
リサが腕を組んで立っていた。
「何が“やばかった”のよ?」
「リサ!?」
「私のほうが大変だったんだから!」
「え? 何が?」
リサは真顔で言った。
「匂いよ。に・お・い!」
三人は沈黙する。
「女性の敵なのよ、あれは……」
ハヤトが吹き出す。
「笑い事じゃないの!」
ダイスケは小さく溜息をついた。
だが、彼の目は真剣だった。
(敵は、生体兵器の実戦投入を始めた……)
その頃――ハイデビロン帝国 地球戦略要塞。
巨大ホログラムの前で、シュルキーレフ将軍が唸る。
「パクキャンサー……失敗だな」
「申し訳ありません。しかし、次こそは」
「スターフォース……侮れん」
将軍の背後で、地球侵略シミュレーションが再計算される。
生体工作兵器計画は、まだ序章に過ぎない。
地球は守られた。
だが、銀河大戦の影は、確実に近づいていた。
小さな赤い目は、
やがて、銀河を燃やす炎の前触れなのかもしれない。つづく