地球へ
プリンシパリティ号の前方スクリーンいっぱいに、地球が映し出された。
それは――
彼らが知っている地球ではなかった。かつて、深い青と白い雲に包まれていた美しい惑星は、
今や所々が赤茶色に染まり、まるで病に侵されたように歪んでいた。侵略の爪痕。
ハイデビロン帝国によって蹂躙された大地の色。「……うそ……」
リサの声が、かすれてブリッジに落ちた。「これが……地球なの……?」
誰もすぐには答えられなかった。
「そ、そんな……」
ハヤトは、無意識のうちに拳を握り締めていた。
脳裏に浮かぶのは、地球に残してきた家族の顔。彼らは無事なのか。それとも――。
「……なんだよ、これ……」
トミーの声には、怒りと困惑が混じっていた。「クッ……異星人め……」
ダイスケは歯噛みし、視線を逸らす。「これは……まさに、脅威ですね」
ガイアの冷静な分析が、逆に現実の残酷さを際立たせた。「感傷に浸っている暇はないわ」
アンナ艦長の声が、ブリッジの空気を引き締める。「これより地球へ降下を開始する」
「総員、大気圏突入の衝撃に備えよ!」「ラジャー!」
全員が応じたその声には、もはや迷いはなかった。
彼らは、覚悟を決めていた。
その頃。
地球軌道上、ハイデビロン帝国地球侵略軍司令部。アルトゥール将軍は、巨大なスクリーンに映る一隻の戦艦を見つめていた。
「ククク……」
低い笑いが漏れる。
「ここを、貴様らの墓場としてやる」
それは、獲物を待つ捕食者の眼だった。
プリンシパリティ号は、荒廃した大地に降り立った。
最初に向かったのは、地球連合軍基地。だが、そこにあったのは――
基地と呼ぶにはあまりにも無残な、瓦礫の山だった。焼け落ちた建造物。
崩れた防壁。
沈黙だけが支配する空間。「……ひどい……」
リサは、思わず声を漏らした。「ああ……」
ハヤトは、視線を前に向けたまま言った。「それほど、ヤツらの力が強大だってことだ」
アンナ艦長は、すぐに指示を出す。
「ハヤト、トミー。基地内の生存者を確認」
「ダイスケ。基地周辺に敵兵が残っていないか、監視を続けて」「ラジャー!」
特殊装甲車両デリンガーは、瓦礫を避けながら基地内へと進んでいく。
ハヤトとトミーは、トライコーダーを手に、慎重に歩を進めていた。だが、検知されるのは――
生命反応ではなく、死の静寂ばかり。倒れた兵士たち。
無言のまま、戦いの終わりを物語る亡骸。「……なーんてこったよ」
トミーが吐き捨てるように言う。「誰もいないのかよ……」
「……まぁ、あれだけの被害だ。いる方がおかしいか……」「いや」
ハヤトは首を振った。
「ヤツらのこと、少しでも知る必要がある」
「それに……万に一つでも、生存者がいたら、話が聞けるかもしれない」二人は、基地最深部――司令室へと向かった。
瓦礫で塞がれた司令室の入口。
その前で、トライコーダーが反応を示した。「……ハヤト」
トミーの声が緊張を帯びる。「ここに……誰かいる」
「生存者か……!」
だが、扉は開かない。
「ちょっと待ってろ」
トミーはフェイザーガンを抜き、
扉横のセキュリティボックスを数回撃ち抜いた。小さな爆発。
生まれたわずかな隙間。「今だ!」
二人は同時に体当たりし、力ずくで扉をこじ開けた。
司令室内部は、奇跡的に原形を留めていた。
床に倒れている、一人の人影。
「おい! 大丈夫か!」
トミーが駆け寄る。
「……うっ……」
かすかな呻き声。
「生きてる!」
ハヤトは、すぐに通信を入れた。
「艦長! 生存者を一名発見しました!」
「了解。すぐに連れてきて、手当てを」
二人は、怪我人をそっと支え、出口へと向かった。
地球は、壊され続けていた。
かつて人類が誇った防衛網は、ほぼ壊滅。
絶望の中で、かろうじて生き残った、たった一人の兵士。だが――
その“たった一人”が、希望になるかもしれない。この美しい地球を救えるのは、もはや――
戦艦プリンシパリティ号しかないのか。答えは、まだ誰にもわからない。
だが、戦いは始まったばかりだった。
つづく