脅威の機械獣ヤンバーン出現!
ハイデビロン帝国の暗黒要塞に、冷たい沈黙が満ちていた。
玉座の間に立つメフィストス将軍は、深く頭を垂れていた。
――駆逐艦隊、全滅。
その言葉の重さが、空間を押し潰す。
「銀河連邦軍が、あのような戦艦を隠していたとはな……」
三神官のひとり、ディアマンテスが低く呟いた。
その声には驚愕と、そして、わずかな苛立ちが滲んでいる。
「我々は、地球人を甘く見すぎていたようですな」
エラントラは、宰相席に背を預けたまま、薄く笑った。
「ゆえに――知る必要があります。彼らの力の限界を」
その視線が、メフィストス将軍に向けられる。
「例の“切り札”を、実戦に投入してみては?」
一瞬の沈黙の後、ディアマンテスがゆっくりと頷いた。
「……なるほど。あれならば、あの戦艦も耐えきれまい」
「メフィストス。戦艦プリンシパリティ号を必ず沈めよ」
「御意に」
将軍は踵を鳴らし、冷酷な微笑を浮かべる。
「――バクテリアン機械獣ヤンバーン、出動!」
一方その頃。
プリンシパリティ号は月軌道へと進路を取り、
静かな宇宙を滑るように進んでいた。月面アルテミス基地から届いた救難信号。
それは、戦闘によるものではなく、内部異常を示す、不可解な内容だった。
「しかし……あの主砲の威力は、正直すごかったよな」
ブリッジで、トミーが感嘆混じりに言う。
「だがな」
操縦席のハヤトは、視線を前に向けたまま答えた。
「あれは切り札だ。使えば、こちらは無防備になる」
「イージスも切れるし、回避もできない。諸刃の剣さ」
アンナ艦長は、月面基地が視界に入ったのを確認し、指示を出した。
「アルテミス基地到着」
「ハヤト、ダイスケ、リサ、ガイア。調査と救助に向かって」
基地内部は、奇妙なほど静まり返っていた。
外部からの砲撃痕もなく、破壊の痕跡もない。
だが――生命の気配が薄い。
薄暗い医務室で、かろうじて補助電源が稼働していた。
一人の医師と医療ロボットが、意識のない兵士を必死に治療している。
「わからないんです……」
医師は疲れ切った声で語った。
「メインコンピュータが、何者かに侵入された」
「この基地のセキュリティは、最高レベルだったのに……」
ガイアは、すでに端末に接続していた。
「増殖型ニューラル・ネットワーク・ウィルス」
「ネットワーク内部で自己学習・自己拡張する、極めて高度な存在です」
それは、単なる破壊ではない。
知性を持った侵略だった。
その時――。
「艦長! 左舷前方にホールド磁場反応!」
ブリッジのトミーの声が、鋭く響いた。
「ギャラクシー級――ミハイルコルドゥーン号です!」
アンナ艦長は即座に判断する。
「緊急体制レベル2」
「ハヤト、敵襲来。直ちに帰還せよ!」
スターフォースが発進した直後、異変は起きた。
未確認飛行物体――それは、空中で不気味に変形し、
恐竜型の巨大機械獣へと姿を変えた。「……なんだ、あれは」
ハヤトの声が、かすかに震える。
機械獣ヤンバーン。
圧倒的なパワーと機動力を併せ持ち、スターフォースを容易く捕らえる。
月面基地アルテミスは、次々と破壊されていった。
瓦礫が舞い、施設が砕け散る。
それは戦闘ではない。
一方的な蹂躙だった。
「牛耳ったぞ……プリンシパリティ号」
ミハイルコルドゥーン号のブリッジで、メフィストス将軍が嗤う。
「観念するがいい!」
「……このままじゃ、終わらねえ」
ハヤトは歯を食いしばった。
「必ず……どこかに弱点があるはずだ」
彼は瓦礫の隙間へとヤンバーンを誘導する。
「ガイア! ポイントFだ!」
「プラズマイオン砲、用意!」
「了解しました」
急反転。急上昇。
「――今だ!」
閃光が走った。
次の瞬間、機械獣ヤンバーンは爆発炎上し、月面に崩れ落ちた。
「ヤンバーン、撃破……」
「ドクト、トンへ部隊も全滅です」
報告を受け、メフィストスは静かに目を閉じた。
「……退却する。ホールド開始」
戦いは終わった。
だが、勝利とは言えなかった。
月のアルテミス基地は、無残な瓦礫と化していた。
救えなかった命。守れなかった場所。
ハヤトは、拳を握りしめたまま、何も言えなかった。
プリンシパリティ号は、地球へと向かう。
青く輝くその星は、もうすぐ視界に入る。
だが、そこに待つのは希望か、それとも――
人類を救えるのは、ただ一隻。
戦艦プリンシパリティ号だけだった。
つづく