宇宙戦艦プリンシパリティ号、発進!
ヒノモト皇国銀河連邦宇宙港。
巨大なドーム状の出発ゲートには、火星行きの定期航宙船が静かに浮かんでいた。
白く輝く船体の周囲を、誘導灯が淡く照らしている。
「もうそろそろ出発の時間ね」
ハヤトの母は、息子の顔をまっすぐに見つめながら、そう言った。
別れを惜しむ気持ちを悟られまいと、あえて淡々とした口調だった。
「じゃあ、そろそろ行くよ」
ハヤトは小さくうなずき、肩にかけたバッグを背負い直す。
「いいなあ、お兄ちゃん。火星に行けて!」
妹は無邪気に声を弾ませた。
「遊びに行くんじゃないぞ」
ハヤトは照れ隠しのように笑いながら言った。
「俺は……父さんみたいな、立派なパイロットになるために行くんだ」
その言葉に、母は一瞬だけ目を伏せ、すぐに微笑んだ。
「ハヤト、早く行かないと」
「うん。じゃあ……行ってくる!」
ハヤトは振り返らずに歩き出した。
そのとき、場内アナウンスが響く。
『ヒノモト皇国発、火星行き――MAS0007便。まもなく搭乗を締め切ります』
搭乗ゲートへ向かいながら、ハヤトはふと立ち止まり、胸の奥で静かにつぶやいた。
(あれから……もう三年経ったんだな……)
父を失ったあの日から、彼の時間は止まったままだった。
火星・銀河連邦軍士官学校。
赤い大地を望む講義室で、教官の声が響いている。
「宇宙空間での航法では、ファンデルワールス力と重力干渉の複合計算が重要になる」
生徒たちは真剣な表情で端末を操作していた。
「明日は卒業試験だ」
教官は教壇から生徒たちを見渡す。
「以前話した通り、新型戦闘機による実技試験を行う」
ざわめきが起こる。
「なあ、ハヤト。新型って、どういうことだ?」
トミーが小声で話しかけてきた。
「さあな。あの教官の考えてることは、誰にもわからん」
「ふん」
横からダイスケが鼻で笑う。
「どうせ一番は俺様に決まってる」
「ほう、大した自信だな」
ハヤトが挑発的に返す。
「なんだと、やる気か?」
二人の視線がぶつかる。
「やめなよ、二人とも」
トミーが慌てて割って入った。
「君たちは、トップガンだからいいよなあ。俺なんか……はあ、自信ないよ」
教室に、わずかな笑いが広がった。
だが、その夜――
誰も予想しなかった惨劇が、地球を襲った。
夜空を裂くように、無数の緑色に輝く物体が降り注いだ。
それは隕石ではなかった。
大気圏を突破した謎の物体は、地表に激突すると同時に開き、
異様な姿の異生物と巨大な戦闘マシーンを吐き出した。灼熱の光線が都市を薙ぎ払い、人々は逃げ惑う間もなく焼き尽くされていく。
街は炎に包まれ、文明は音を立てて崩壊した。
地球連合軍は総力を挙げて迎撃したが、圧倒的な科学力の差は歴然としていた。
抵抗は無意味だった。
連合議長は最後の望みを託し、
創設間もない火星の銀河連邦軍へ緊急支援要請を送った。
銀河連邦軍長官、ジョン・クロッペンシュタイン博士は、静かに報告を聞いていた。
「……やはり来たか」
博士はすでに、この侵略を予見していたのだ。
異星人たちは、自らを『ハイデビロン帝国』と名乗り、
地球を完全支配する意志を明確にした。戦火は拡大し、地球連合軍はついに攻略される。
その頃、火星士官学校では、アンナ・イナバウワー教官が博士に呼び出されていた。
博士は地球侵略の現状と、自らが密かに開発していた切り札――
宇宙戦艦プリンシパリティ号の存在を明かす。「君を、この艦の艦長に任命する」
アンナは一瞬、息をのんだ。
「優秀な若きパイロットを選び、地球を救ってほしい」
それは、あまりにも重い使命だった。
アンナ艦長は、士官学校から三人の若者を招集した。
ハヤト、ダイスケ、トミー。
「これより私は、宇宙戦艦プリンシパリティ号の艦長として、地球救援任務に就く」
静かながらも揺るぎない声だった。
「ハヤト。君をスターフォース――パイロットチームのキャプテンに任命する。
加えて、艦の兵器制御オペレーターを任せる」「了解しました!」
「トミー。メインパイロットを担当してもらう」
「は、はい!」
「ダイスケ。航行管理機関士だ」
「任せてください」
さらに、博士の孫娘リサ・クロスフォードが船医として、
通信オペレーター兼航宙管制を担当することになった。博士の助手であるアンドロイド、
ガイアもまた、艦の中枢コンピュータとリンクし、ブレインとして同乗する。
ブリッジに案内された一同は、言葉を失った。
「すごい……」
ハヤトが思わず声を漏らす。
「今まで見たこともないハイテク戦艦だ!」
「これなら……異星人とも戦える」
ダイスケも感嘆する。
「そこが操舵席よ」
リサに促され、トミーが席に座る。
「こ、これが……なるほど、ふむふむ」
「あとを頼んだよ、艦長」
博士は穏やかに言った。
「はい、必ず」
アンナは深くうなずく。
「全員、各部署について」
「艦長、準備完了です」
ガイアの声が響く。
「いつでも発進可能ですよ」
アンナ艦長は前を見据え、はっきりと命じた。
「では――地球に向けて。宇宙戦艦プリンシパリティ号、発進!」
静かな振動とともに、戦艦は宇宙へと飛び立った。
若きクルーたちは、不安を胸に抱きながらも強い使命感に燃えていた。
彼らの旅立ちは、人類の未来を賭けた戦いの始まりだった。
つづく