オケアノスの記憶
海は、死んだ文明を抱いていた。
深く、蒼く、音のない世界。
ナオトたちは結界に守られた空間を抜け、
沈みし大陸オケアノスへと足を踏み入れる。崩れた塔。
珊瑚に覆われた神殿。
石畳の隙間から差し込む蒼白い光。
「……ここが、古代文明のあった場所?」
メグミが小さく呟く。
その瞬間、空気が震えた。
見えない圧力が胸を締めつける。
侵入者を拒む“死の結界”。
メグミが目を閉じる。
「――ホーリー・パワー」
淡い光が広がり、邪気を祓う。
アミカも手を重ねる。
「ノブレス・ルージュ」
凶暴な気配が和らぎ、遺跡は静寂を取り戻す。
最後にナオトが石壁に触れる。
「……ウィシュ・ボーン」
柔らかな光が波紋のように広がる。
結界は、消えなかった。
だが、敵意を失った。
まるで――
「守っている……?」
セラフィムが呟く。
オケアノスは侵入者を殺すのではない。
未熟な者を拒んでいたのだ。
彼らは中央神殿へと進む。
崩れた天井から差し込む光の下、巨大な円環を描いた壁画があった。
星々へと伸びる光の門。
その名が、脳裏に浮かぶ。
スターゲイザー。
神殿の中央に立った瞬間。
四人の光が、同時に脈打った。
視界が歪む。
音が消える。
そして――
流れ込んできた。
歓喜。
期待。
希望。星間航行の成功に沸く民衆。
「これで争いは終わる!」
「星々へ渡れる!」
だが、次の瞬間。
恐怖。
不安。
一人の指導者が高らかに宣言する。
「平和を守るには、統一が必要だ」
星を渡る力は、
やがて“統治”の道具となる。反発。
粛清。
内乱。制御不能となった時空装置。
歪む空間。
崩壊する都市。
叫び。
沈む大地。
映像は断ち切られた。
ナオトは膝をつく。
「間違ったのは……装置じゃない」
メグミの目に涙が浮かぶ。
「正義のつもりだった……」
アミカは拳を握る。
「従わせることと、救うことは違う……」
オケアノスは、兵器に滅ぼされたのではない。
思想に滅びた。
同じ頃。
遺跡の別区画。
キョースケは、静かな石室に立っていた。
隣には、黒髪の少女――メハシェファ。
彼女が壁に触れると、過去の映像が浮かび上がる。
「ここで、世界は終わりました」
淡々とした声。
キョースケは腕を組む。
「違うな。弱かったから終わった」
彼は映像の支配者を見つめる。
「中途半端に統一しようとするからだ」
メハシェファの瞳が揺れる。
「主は、恐れないのですね」
「恐怖は支配の材料だ」
空気が重くなる。
遠くで待機するインセクターたちが、一斉に跪いた。
《ハード・コントローラ》
支配の威光が、静かに空間を満たす。
メハシェファは微笑む。
「リバイアサンは、まだ眠っています」
「案内しろ」
ナオトたちは、神殿地下へと辿り着く。
巨大な扉が、四つの光に反応して開いた。
そこに広がる空間。
星空のような天井。
そして――
宙に浮かぶ巨大な円環構造。
幾何学的な光の柱。
中心で脈打つ核。
息を呑む。
「……これが」
メグミの声が震える。
「リバイアサン」
だが、それは砲門も刃も持たない。
空間に星図が投影される。
無数の座標。
惑星間航路。
スターゲイザー。
それは“兵器”ではなかった。
道だった。
その瞬間。
別方向の通路から、重い足音。
振り向く。
キョースケ。
その背後に、幻影魔女メハシェファ。
リバイアサンの核が強く反応する。
支配の威光と共鳴するように。
ナオトとキョースケの視線が交差する。
言葉はない。
ただ、同じ装置を見上げる。
希望の光と、支配の威光。
二つの力が、静かにぶつかり合う。
リバイアサンの核が、眩く輝いた。
それは、兵器ではなかった。
だが――
世界を変える力であることだけは、確かだった。
つづく