ファンタジー小説 銀河漂流記

銀河漂流記 第16話

ホレブ山の大賢者

翡翠色の光が満ちる碧晶宮の大広間。

天井は星空のように輝き、柱は透き通る水晶でできている。
足音さえも澄んだ音色を響かせる神聖な空間の奥、玉座に座す一人の老人がいた。

白銀の髭を胸まで垂らし、深い蒼の衣をまとった大賢者――メルキゼデク。

その瞳は、時の彼方を見つめているようだった。

「遠き銀河より来たりし者たちよ」

低く、しかし静かに響く声。

「ブラックホールを越え、運命の門をくぐりし四人の救世主よ」

ナオトたちは息を呑む。

「どうして、それを……」

メルキゼデクは、わずかに微笑んだ。

「星々は、すべてを記憶している」

従者カレブとヨシュアが、メルキゼデクの両脇に静かに控える。

メルキゼデクは続けた。

「汝らが探しているもの――古代兵器リバイアサン。
 その正体を知りたいのだろう」

ナオトは頷いた。

「それは、この世界を滅ぼした兵器じゃないんですか?」

老人はゆっくりと首を振る。

「違う」

その一言が、宮殿の空気を変えた。

「リバイアサンは兵器ではない。
 それは“スターゲイザー”である。惑星間を時空移動するための装置だ」

「時空移動……?」

メグミが息をのむ。

「古代文明オケアノスは、それによって星々を渡ろうとした。
 だが――恐怖と誤解が文明を滅ぼした」

オケアノス。

何万年も前、海底に沈んだ大陸国家。

足を踏み入れた者は、死ぬと恐れられている遺跡である。

「結界が張られているのだ。未熟な者が近づけば、命を奪われる」

メルキゼデクの瞳が鋭くなる。

「そして、スターゲイザーを起動できるのは、三大神官の聖杖のみ」
「その鍵を守るのが、三大神官の使命だ」

ナオトたちは互いを見た。

ブラックホールを通過して得た特殊能力――

ナオト:希望の光《ウィシュ・ボーン》
メグミ:聖なる光《ホーリー・パワー》
アミカ:高貴の光《ノブレス・ルージュ》

そして――
キョースケ:支配者の威光《ハード・コントローラ》

「能力は鏡だ」

メルキゼデクが静かに告げる。

「自由を得る希望にもなれば、支配の闇にもなる」

その瞬間。

老人の表情が、わずかに曇った。

「……封印が、解かれた」

空気が凍る。

「何がですか?」

「幻影魔女メハシェファ」

宮殿の光がわずかに揺らぐ。

「古代人が命を賭して封印した存在。
 邪心の幻影。この世を破滅へ導く者」

ナオトの胸がざわつく。

「誰が……」

「支配の光を持つ者だ」

その言葉に、ナオトはキョースケの顔を思い浮かべた。

――その頃。

古代遺跡オケアノス。

夜の宴の火が揺らめく中、黒曜石の棺が低く唸った。

キョースケが、何気なく手を触れた瞬間、空間が歪む。

封印紋がひび割れ、崩れ落ちる。

棺が開いた。

中から現れたのは――
十五歳ほどの少女。

長い黒髪、透き通る白い肌、深淵のような瞳。

兵士たちが凍りつく。

だが、少女はキョースケだけを見つめた。

本来ならば、彼女は封印を解いた者を精神侵食し、支配する存在。

しかし、キョースケの中の特殊能力が、無意識に発動した。

《ハード・コントローラ》

空気が重くなる。

兵士たちが膝をつく。

遠くで控えていたマルデューク帝国軍のインセクターたちが、
一斉に触角を伏せた。

彼らは、群体意識種族。

上位存在の精神波に絶対服従する本能を持つ。

ブラックホールを通過し、変質したキョースケの精神波は――

彼らにとって“女王波長”と同質だった。

だから従う。

恐怖ではない。

本能。

少女の瞳が、一瞬だけ見開かれる。

彼女は理解した。

この少年は、支配する側。

自分が、本来立つはずの頂点にいる存在。

ゆっくりと、少女は跪いた。

「……あなたが、わたしの主」

キョースケは口元を歪める。

「面白い。お前、名前は?」

「メハシェファ」

その声は甘く、底知れない闇を孕んでいる。

「俺に従うか?」

「はい、主」

だが、その微笑みの奥に、無数の滅びた世界の残像が揺らいでいた。

キョースケは気づかない。

彼は支配している。

だが、同時に破滅の中心へと歩き出している。

碧晶宮。

メルキゼデクは静かに目を閉じる。

「光は四つ。だが均衡が崩れれば、世界は裂ける」

ナオトは拳を握った。

「俺たちは、世界を守るために、この能力を使う」

希望の光が、かすかに輝く。

その遠くで。

支配の光が、強く、鋭く燃え上がっていた。

希望(光)と支配(闇)。

二つの道が、いま完全に分かれた。

つづく

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