ファンタジー小説 銀河漂流記

銀河漂流記 第15話

聖殿到着

古代遺跡の最深部。

永い歳月を閉じ込めた石の回廊は、冷たい空気を湛え、
壁面には意味を失った古代文字が浮かび上がっていた。
青白い燐光が、広間の中央に安置された巨大な棺を照らしている。

そこに封じられているのは――古代人が命を賭して封印した“魔女”。

キョースケは棺の前に立ち、腕を組んだ。

「なかなか開かないな……よし、叩き壊すか。お前、やれ」

命じられた兵士は顔を引きつらせる。

「無理です。びくともしません。まるで山そのものです」

棺は黒曜石のような光沢を放ち、表面には複雑な封印紋が刻まれている。
剣も槍も通さず、鉄槌で打てば逆に火花が散った。

「じゃあ、次はダイナマイトで爆破してみよう」

女王が思わず眉をひそめる。

「……この神聖な場所で?」

「開けばいいんだろ、開けば」

しかし、爆炎が遺跡の天井を揺らしても、棺は黒く静かにそこに在り続けた。
焦げ跡一つ残らない。

キョースケは顎に手を当て、しばらく考え込む。

「んー、だめか。さて、どうしたものかな」

そして唐突に言った。

「しかたない。今日はここで寝泊まりするぞ」

「え? ここで?」

女王の声が、石壁に反響する。

「せっかく古代遺跡まで来たんだ。宴の用意だ」

「は? ……なぜに?」

キョースケは、にやりと笑った。

「キャンプだよ。どうせ棺は、逃げやしない」

緊張に包まれていた広間に、奇妙な緩みが生まれる。

女王はため息をつきながらも、どこか楽しげに呟いた。

「……なるほど。さすが、キョースケ殿だ」

魔女の眠る棺の前で、兵士たちは火を囲み、酒を酌み交わす。
不気味な静寂と人の笑い声が交差する夜が、遺跡に降りていった。

棺の表面の封印紋が、ほんの一瞬だけ、淡く脈打ったことに――
誰も気づかなかった。

一方その頃。

ナオトたちは、ホレブ山の中腹を歩いていた。

目指すは、大賢者の住まうとされる幻籠洞碧晶宮。

霧が立ちこめ、岩肌は翡翠色の光を帯びている。
だが、どれだけ歩いても景色は変わらなかった。

「ずいぶん歩いたようだけど、まだ着かないの?」

メグミが疲れた声を上げる。

「もうそろそろ着いてもいいはずなんですが……」

セラフィムも困惑している。

「また同じところ、ぐるぐる回ってるとか?」

アミカが半ば本気で言う。

「それはない。方角は正しい」

冷静に断言するデュミナス。

「じゃあ、どうして……?」

ウリエルが空を見上げた。

ナオトは肩をすくめる。

「まあ、いずれ着くよ」

「無責任な……」

メグミとアミカの声が重なる。

「セラフィムさん、なんとかならないの?」

「私も初めてなので……」

イシュタルが静かに言った。

「ナオト樣たちの特殊な能力で探せませんか?」

「あ、なるほど……やってみるか」

ナオトは目を閉じ、意識を研ぎ澄ます。
だが、感覚は霧のように拡散し、核心を掴めない。

「……だめだ」

「私たちも無理だわ」

そのとき、アミカがぱっと顔を上げた。

「あ、そうだ。三人の力を合わせてみましょう」

ナオトは微笑む。

「なるほど。さすが、アミカちゃん」

三人は手を重ねた。

心を開き、力を重ねる。

光が指先から溢れ、空間そのものが揺らいだ。

――景色が、剥がれる。

霧が裂け、岩壁が透け、その奥に真の姿が現れる。

翡翠と水晶で築かれた幻想の宮殿。
光を反射する柱が林立し、空気そのものが澄み渡っている。

「……あれが」

セラフィムが息を呑む。

「大賢者樣の住む、碧晶宮です」

「結界……だったのね」

イシュタルが静かに呟く。

そのとき、宮殿の階段から一人の少年が歩み寄ってきた。

年の頃は、イシュタルと同じくらい。
透き通るような瞳を持つ、落ち着いた雰囲気の少年だった。

「ようこそ、いらっしゃいました」

穏やかな声。

「大賢者樣がお待ちです。僕は弟子のカレブと申します」

ナオトは目を細める。

「どうして、俺たちが来ることを?」

カレブは微笑んだ。

「師匠は、何でも御存じなのです」

その言葉は誇張ではなく、ただの事実のように響いた。

ナオトたちは互いに視線を交わし、そして頷く。

運命の扉は、静かに開かれたのだ。

翡翠の宮殿の中へと足を踏み入れると、空気が変わる。
そこは、世界の理そのものが宿る場所のようだった。

彼らはまだ知らない。

この邂逅が、遠い銀河の運命すら揺るがすことを。

つづく

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