ファンタジー小説 銀河漂流記

銀河漂流記 第12話

眠れる森の美女

森は、なおも彼らを試すかのようだった。

進めど進めど、同じ景色が繰り返される。
曲がり角のはずが直線に戻り、目印にした木も、気づけば背後に立っている。

「……変ね」

メグミが立ち止まり、周囲を見回した。

「どうなってるの? この森……」

「迷路みたいだわ」
アミカが眉をひそめる。

「意志を持って、私たちを彷徨わせてる」

「道を探すのは無理か……」
ナオトがそう呟いたとき、デュミナスが一歩前に出た。

「ナオト様。私は、風と雲の流れで方角を読むことができます」

「なるほど……」

ナオトは頷いた。

「じゃあ、道じゃなくて、空を見る。
森に惑わされず、世界の流れに従って進もう」

その判断は正しかった。

デュミナスの導きのもと、彼らは一定の方向を保って歩き続けた。
やがて、森の空気が微かに変わる。

「あ……」
アミカが声を潜める。

木々の根元に、小さな影が立っていた。

「小人……?」

背丈は子供ほど。長い帽子を被り、丸い目でこちらを見ている。

「……おとぎ話みたい」

メグミが思わず微笑む。

「森の精かもしれません」
セラフィムが静かに言った。

小人は、何も語らず、くるりと背を向けた。
そして、確かめるように一度だけ振り返る。

「……誘ってるな」

ナオトがそう言うと、メグミとアミカは顔を見合わせた。

「はいはい、また始まった」
「こういうの、断らないタイプだもんね」

小人は歩き出し、彼らは後を追った。

やがて辿り着いたのは、森の奥に口を開けた洞窟だった。
中へ入ると、そこには不思議な光景が広がっていた。

洞窟の奥に、小さな家。
その中に、さらに十一人の小人たちが集っていた。

彼らは言葉を発することなく、ナオトを手招きする。

導かれるまま進むと、白いベールに包まれた寝台があった。

その上に、ひとりの女性が横たわっている。

「……お姉ちゃん……」

イシュタルの声が震えた。

「お姉ちゃんだ……!」

「じゃあ……この人が、姫……?」

ナオトが息を呑む。

ルンディーナ姫は、
まるで眠りそのものになったかのように、穏やかな表情で横たわっていた。

「眠ってるだけみたいね……」

メグミが一歩近づく。

「私の力、試してみる」

彼女の手に、あの淡い光が宿る。
そっと姫にかざすが――何も起こらない。

「……だめ」

「やっぱり、違う魔法なのね」
アミカが呟く。

「姫は、深い眠りの呪いを受けておられるのでしょう」
セラフィムは静かに首を振った。

「……そういえば」
アミカがふと思い出したように言う。

「昔、読んだおとぎ話……王子様のキスで、姫が目覚める話」

その視線が、ゆっくりナオトに向いた。

「……え?」

「王子様?」
「オレが?」

メグミとアミカが同時に吹き出す。

「なんで、俺なんだよ……!」

ナオトは抗議したが、セラフィムが深く頭を下げた。

「ナオト様。お願いいたします」

「……はあ……」

ナオトは覚悟を決め、姫のもとへ歩み寄った。

そっと、その手を握る。

その瞬間――

ナオトの手から、温かな光が溢れ出した。
淡い黄色に、柔らかな橙を帯びた光。

それは、鼓動とともに脈打ち、姫の胸元へと広がる。

――ぱちり。

閉じていた瞼が、ゆっくりと開いた。

「……イシュタル……?」

「お姉ちゃん!!」

イシュタルが駆け寄り、姫は微笑んだ。

「……あなたが……?」

「この方が、姫を目覚めさせてくださいました」

セラフィムが告げる。

「……ありがとう」

「い、いや……えへへ……」

照れたナオトが手を離そうとしないのを見て、メグミが睨んだ。

「……いつまで握ってるの?」

「い、いててて!」

その騒ぎの中、ふと気づく。

「……あれ? 小人たちは?」

洞窟の中には、もう誰もいなかった。

「森の精ですから……役目を終えて、消えたのでしょう」
セラフィムが言った。

「きっと、姫を守っていたのですね」

ルンディーナ姫は、静かに頷いた。

「……私は、ずっと守られていたのですね。この森に」

こうして、姫は無事に救出された。

妖魔の森
――それは、ただ恐ろしいだけの場所ではなかった。

邪悪とともに、聖なるものもまた、確かに息づいていた。

そしてナオトとメグミは、この森で知ることになる。

自分たちの中に芽生えつつある、新たな光の力を。

つづく

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