ファンタジー小説 銀河漂流記

銀河漂流記 第10話

妖魔の森へ

マルデューク帝国軍要塞。
鋼鉄と黒曜石で組まれた玉座の間に、歪んだ笑い声が響いていた。

「そうか……」
キョースケは口元を吊り上げた。
「そんな“すばらしい秘密兵器”があったとはな」

女王ゴールデンバウムは、わずかに表情を曇らせる。
「だが、キョースケ殿……それは伝説にこう記されている。
――決して解き放ってはならぬと。
もし封印を破れば、必ず禍が訪れると……」

「はっ」
キョースケは鼻で笑った。
「迷信だ。よくある話だろ?
“力には代償がある”とか、“人は選ばれる”とかさ」

彼は女王を見下ろすように言った。
「で、それはどこにある?」

「王国の言い伝えでは……」
女王は低く答える。
「妖魔の森の、どこかに」

「決まりだな」
キョースケの瞳が、不自然な光を帯びた。
「行くぞ。俺様が、その伝説を塗り替えてやる」

一方その頃――
ナオトたちは、へブロン王国の王宮へと一時帰還していた。

「皆さん、ご苦労でした」
ダリヨス王は穏やかに微笑んだ。
「三大神官の到着まで、どうかゆっくり休んでください」

「ありがとうございます」
ナオトは一礼しつつ、少し考え込んでから言った。
「王様、図書室を使ってもいいですか?調べたいことがあって」

「もちろんだ」
王は頷いた。
「ハマン、案内を」

王宮の奥深く、静まり返った図書室。
高い天井まで続く書棚には、無数の古書が並んでいた。

ナオトは一冊を手に取り、ページをめくる――が。

「……あれ?」

文字が、まったく読めない。

「イシュタル」
ナオトは苦笑して尋ねた。
「この本、何が書いてあるの?」

「あれ?」
イシュタルは目を丸くした。
「ナオト様、字が読めないんですか?」

「うん。さっぱり」

「これは、この国の歴史書ですね」

「じゃあさ」
ナオトは頭をかきながら言った。
「古の書物を探してほしいんだ。俺たちのことが載ってるやつ」

「お探しものは……これかな?」

振り向くと、そこに立っていたのはエリザベス皇太后だった。

「おばあちゃん……」
イシュタルが微笑む。

「ナオト殿は、ずいぶん勉強熱心ですな」
エリザベスは一冊の古書を差し出した。

「そ、その……」
ナオトは少し照れながら言う。
「古の書に、俺たちのことが書いてあるって聞いたんで」

「直接的ではありませんが」
エリザベスは静かに語る。
「予言詩として、記されています。それと――
この惑星にかつて存在した、古代文明の歴史も」

「その国って……まだあるんですか?」

「いいえ」
エリザベスは首を振った。
「海底に沈み、今は存在しません。
名は――オケアノス。超古代文明です」

ナオトは息をのんだ。

「遺跡の一部が、妖魔の森に残っているとも言われていますが……」
エリザベスは目を伏せる。
「発掘調査隊は、幾度も派遣されました。
ですが、誰一人、戻ってはきませんでした」

「……そうですか」
ナオトは小さく呟いた。
「何か、元の世界に帰る手がかりがあると思ったんですけど」

「古代文明に最も詳しいのは」
エリザベスは顔を上げた。
「大賢者メルキゼデク様です。
あのお方なら、何かご存じかもしれません」

「じゃあ……」
ナオトは決意を込めて言った。
「会いに行かないと、ですね」

やがて、三大神官が王宮に集った。

サムエルは、静かにナオトへ告げる。
「ナオト様。これより先は、私ではなく、三大神官があなたがたを守護します。
妖魔の森では、私の剣は役に立ちません」

「……わかりました」

「三大神官よ」
ハマンが厳かに言う。
「救世主を、必ずお守りせよ」

エリザベスはイシュタルを呼び寄せ、一つの品を手渡した。
「これを持って行きなさい」

王家の紋章が刻まれた、手形の印章。

「それが、あなたがたを導き、守るでしょう」

こうして――
ナオト、メグミ、アミカ。
三大神官、そしてイシュタル。

一行は、大賢者に会うため、
そして運命の核心へと近づくため――
妖魔の森へ足を踏み入れた。

森の奥は、光を拒むように暗く、
風の音すら、どこか異質だった。

彼らはまだ知らない。
同じ森のどこかで、
もう一人の“救世主候補”が、禁忌へと手を伸ばしていることを。

つづく

-ファンタジー小説 銀河漂流記