ファンタジー小説 銀河漂流記

銀河漂流記 第8話

ラーメン対決

港町マルケットは、潮の香りと人の熱気が混じり合う、活気あふれる商業都市だった。
大小さまざまな船が港に並び、通りには屋台と商人の声が絶えない。

太陽の神殿の管理者――三大神官のひとり、ウリエル。
その人物を訪ね、ナオトたちはこの街へやって来ていた。

「結構歩きましたね……」
イシュタルが小さく息をつく。

「うん。お腹、完全に空っぽだよ」
ナオトはそう言った途端、ぴたりと足を止めた。

「……ねえ。なんか、いい匂いしない?」

「そういうところだけは鋭いのよね」
メグミが呆れたように言う。

通りの先――
異様なほどの行列ができていた。

「なに、あれ?」

「行ってみましょう、ナオト様!」

人垣を抜けた先にあったのは、古びた屋台。
立ち上る湯気と、鼻腔を刺激する濃厚な香り。

「……ラーメンだ」
ナオトの目が輝いた。

「え、ラーメン?」
「こんな世界にも、あるんだな……」

「並ぶの、やだ!」
メグミとアミカが即座に声を揃える。

「でもさ、楽しみは待った分だけ美味しいって言うじゃん?」

――結果、約一時間後。

「……とんこつ、か」
ナオトは丼を前に、静かにうなずいた。

「兄ちゃん、初めてか?」
店主が声をかける。
「チャーシュー、サービスしとくぜ」

「ありがとうございます!」
一口すすった瞬間、ナオトの表情がほどけた。

「……うまい。深い……」

「そうか! じゃあ替え玉もな!」

そのときだった。

店の暖簾が乱暴に揺れ、見覚えのある男が現れた。

「……あ」

「また、お前らか」
キョースケは鼻で笑った。
「ここは、俺様のお気に入りの店だ。知る人ぞ知る名店だぞ」

「ラーメン好きだったんだ、お前」
ナオトが苦笑する。

「当然だ。俺様は、ラーメンにおいても支配者だ」
キョースケは両腕を組み、言い放った。
「勝負しろ、ナオト」

「いいけど。俺も、けっこう通だよ?」

「おお、面白え!」

店主が笑いながら前に出る。
「じゃあ、あたいが審判だ。名前はウリエルだ」

「……ウリエル!?」
サムエルが息を呑んだ。

こうして、思いもよらぬ場所で――
ラーメン対決の火蓋が切られた。

「始め!」

キョースケのラーメンは、豪奢そのものだった。
伊勢海老、イクラ、惜しげもなく盛られた高級食材。

「どうだ」
キョースケが勝ち誇る。
「これに勝てるか?」

ウリエルが一口、口に運ぶ。

「……なるほど。醤油ベースか。素材は一級品だな」

次に差し出されたのは、ナオトの丼だった。

「……具が、ない?」

だが、ひとすすりした瞬間、ウリエルの目が見開かれる。

「これは……!」

「とんこつをじっくり煮込んで、魚介と野菜で出汁を重ねました」
ナオトは静かに言った。
「麺は、身体に負担をかけない配合です」

「……味だけじゃない。心がある」
ウリエルは笑った。
「勝ちは、ナオトだ」

「やった!」
イシュタルが声を上げる。

「な、なんでだ……!」
キョースケは歯噛みした。

「ラーメンの道は深いのだよ」
ウリエルが肩をすくめる。

怒りに任せ、キョースケは叫んだ。
「インセクターども! やれ!」

屋台が壊され、街が騒然とする。

「……あたいの店を壊しやがって」
ウリエルの目が燃えた。
「炎の精霊よ、我に力を!」

炎が舞い、インセクター軍団は退却した。

「食は一期一会だ」
ウリエルは静かに言った。
「その一杯に、どう向き合うか。それが生き方だ」

「ウリエル」
サムエルが名乗る。
「我々は王宮の者だ」

「で?」
ウリエルは笑う。
「あたいに何を求める?」

「一緒に来てほしい」
ナオトが言った。
「この世界を守るために」

「……そうだな」
ウリエルはナオトを見た。
「弟子になる気があるなら、考えてやる」

「いいですよ」
ナオトは即答した。
「料理、好きなんで」

「ちょっと!?」
「また勝手に!」

だが、皆の笑い声が重なった。

戦いの合間に交わされた、たった一杯のラーメン。
それは確かに、この旅の一部となっていた。

つづく

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