ラーメン対決
港町マルケットは、潮の香りと人の熱気が混じり合う、活気あふれる商業都市だった。
大小さまざまな船が港に並び、通りには屋台と商人の声が絶えない。太陽の神殿の管理者――三大神官のひとり、ウリエル。
その人物を訪ね、ナオトたちはこの街へやって来ていた。「結構歩きましたね……」
イシュタルが小さく息をつく。「うん。お腹、完全に空っぽだよ」
ナオトはそう言った途端、ぴたりと足を止めた。「……ねえ。なんか、いい匂いしない?」
「そういうところだけは鋭いのよね」
メグミが呆れたように言う。通りの先――
異様なほどの行列ができていた。「なに、あれ?」
「行ってみましょう、ナオト様!」
人垣を抜けた先にあったのは、古びた屋台。
立ち上る湯気と、鼻腔を刺激する濃厚な香り。「……ラーメンだ」
ナオトの目が輝いた。「え、ラーメン?」
「こんな世界にも、あるんだな……」「並ぶの、やだ!」
メグミとアミカが即座に声を揃える。「でもさ、楽しみは待った分だけ美味しいって言うじゃん?」
――結果、約一時間後。
「……とんこつ、か」
ナオトは丼を前に、静かにうなずいた。「兄ちゃん、初めてか?」
店主が声をかける。
「チャーシュー、サービスしとくぜ」「ありがとうございます!」
一口すすった瞬間、ナオトの表情がほどけた。「……うまい。深い……」
「そうか! じゃあ替え玉もな!」
そのときだった。
店の暖簾が乱暴に揺れ、見覚えのある男が現れた。
「……あ」
「また、お前らか」
キョースケは鼻で笑った。
「ここは、俺様のお気に入りの店だ。知る人ぞ知る名店だぞ」「ラーメン好きだったんだ、お前」
ナオトが苦笑する。「当然だ。俺様は、ラーメンにおいても支配者だ」
キョースケは両腕を組み、言い放った。
「勝負しろ、ナオト」「いいけど。俺も、けっこう通だよ?」
「おお、面白え!」
店主が笑いながら前に出る。
「じゃあ、あたいが審判だ。名前はウリエルだ」「……ウリエル!?」
サムエルが息を呑んだ。こうして、思いもよらぬ場所で――
ラーメン対決の火蓋が切られた。
「始め!」
キョースケのラーメンは、豪奢そのものだった。
伊勢海老、イクラ、惜しげもなく盛られた高級食材。「どうだ」
キョースケが勝ち誇る。
「これに勝てるか?」ウリエルが一口、口に運ぶ。
「……なるほど。醤油ベースか。素材は一級品だな」
次に差し出されたのは、ナオトの丼だった。
「……具が、ない?」
だが、ひとすすりした瞬間、ウリエルの目が見開かれる。
「これは……!」
「とんこつをじっくり煮込んで、魚介と野菜で出汁を重ねました」
ナオトは静かに言った。
「麺は、身体に負担をかけない配合です」「……味だけじゃない。心がある」
ウリエルは笑った。
「勝ちは、ナオトだ」「やった!」
イシュタルが声を上げる。「な、なんでだ……!」
キョースケは歯噛みした。「ラーメンの道は深いのだよ」
ウリエルが肩をすくめる。怒りに任せ、キョースケは叫んだ。
「インセクターども! やれ!」屋台が壊され、街が騒然とする。
「……あたいの店を壊しやがって」
ウリエルの目が燃えた。
「炎の精霊よ、我に力を!」炎が舞い、インセクター軍団は退却した。
「食は一期一会だ」
ウリエルは静かに言った。
「その一杯に、どう向き合うか。それが生き方だ」「ウリエル」
サムエルが名乗る。
「我々は王宮の者だ」「で?」
ウリエルは笑う。
「あたいに何を求める?」「一緒に来てほしい」
ナオトが言った。
「この世界を守るために」「……そうだな」
ウリエルはナオトを見た。
「弟子になる気があるなら、考えてやる」「いいですよ」
ナオトは即答した。
「料理、好きなんで」「ちょっと!?」
「また勝手に!」だが、皆の笑い声が重なった。
戦いの合間に交わされた、たった一杯のラーメン。
それは確かに、この旅の一部となっていた。つづく