ファンタジー小説 銀河漂流記

銀河漂流記 第7話

ふらり秘湯の旅

そのころ――
ナオトたちと袂を分かったキョースケは、マルデューク帝国軍に身を寄せ、女王ゴールデンバウムの玉座の間に立っていた。

黄金の装飾に囲まれた広間で、二人の笑い声が不気味に反響する。

「これより、インセクター軍団の指揮はキョースケ殿に任せる」
「はっ。俺様に任せておけば、すべて思い通りだ」

二人は顔を見合わせ、高らかに笑った。
その笑いは、惑星シオンに新たな災厄が訪れる合図でもあった。

キョースケはすぐさま命を下し、インセクター軍団は水の都スパ・ユミズの水源
――山間の巨大なダムを封鎖した。
清らかな水を誇りとしてきた都は、瞬く間に渇きの影に包まれる。

一方その頃。
ナオト、メグミ、アミカ、そしてサムエルたちは、大地の神殿を預かる三大神官の一人――セラフィムを訪ね、水の都スパ・ユミズへと到着していた。

「……ねえ、なんだか街の雰囲気、おかしくない?」
メグミが不安げに周囲を見回す。

通りを行き交う人々の表情は暗く、噴水も水路も干上がっていた。

「何かあったのですか?」
サムエルが声をかけると、年老いた住民が重くうなずいた。

「水源のダムが止められてしまってな……」

「そんなひどいこと、誰が……」
アミカが言いかけた、その時だった。

空を覆う黒い影――
インセクター軍団が、街の上空に現れたのだ。

「……あれは……」
ナオトが息をのむ。

群れの前に進み出たのは、見覚えのある姿だった。

「そんなに水が欲しいか?」

嘲るような声。
キョースケだった。

「水なら、ここに山ほどあるぜ。欲しけりゃ――売ってやってもいい」

女王ゴールデンバウムも姿を現し、満足げに頷く。
「見事だ。支配とはこういうものよ」

「キョースケくん……?」
メグミが信じられないという表情で呟く。

「どうして、あんなことを……」
「俺様は、この世界の神になるんだ」

かつての仲間は、もう戻らない場所へ踏み込んでいた。

そして、街に火の手が上がった。

「水が欲しいだろう?」
キョースケの声が、炎の向こうから響く。

その瞬間――
大地が震えた。

一人の女性が、静かに前へ進み出る。
流れるような衣をまとい、杖を携えたその姿は、まるで大地そのものの化身だった。

「大地の精霊よ。我に力を」

杖が掲げられると、地面に亀裂が走り、清水が噴き上がる。
水は炎を呑み込み、街を救った。

さらに轟音とともに地が揺れ、インセクター軍団は退却を余儀なくされる。

「……あれは……」

「セラフィムだよ」
イシュタルが誇らしげに言った。

大地の神殿の管理者、三大神官の一人――セラフィム。

「サムエル様、お久しぶりです」
「変わらぬご活躍、何よりです」

短い挨拶ののち、セラフィムは微笑んだ。
「詳しい話は、私の宮殿で」

案内された先は、山奥に佇む静かな館だった。
宮殿とも旅館ともつかぬ、和やかな趣の建物。

「ここ……宮殿?」
「ええ。落ち着くでしょう?」

セラフィムはそう言って、彼らをもてなした。

「まずは温泉で、旅の疲れを癒してくださいな」

「え、温泉!?」
メグミが思わず声を上げる。

「たまには、いいんじゃない?」
アミカはくすりと笑った。

その後――
何も知らないナオトが浴場の戸を開けた瞬間、

「あ……」

「きゃー!!」

乾いた音とともに、桶が飛んだ。

「……ごめん、完全に俺が悪い」

廊下に響く叫び声と笑い声。
緊張に張り詰めていた旅路に、久しぶりの人間らしい騒ぎが戻ってきた。

セラフィムはその様子を見て、どこか懐かしそうに微笑む。

「こういう時間こそ、大切なのよ」

戦争の影が迫る中でも
――彼らは、ささやかな日常を取り戻していた。

それが、未来を守る力になることを、まだ誰も知らなかった。

つづく

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