黄金の神殿
聖なる丘へと続く道は、ゆるやかでありながら、どこか張りつめた空気をまとっていた。
ナオト、メグミ、アミカ。
そしてサムエルとイシュタル。一行は、森を抜け、丘を登りながら神殿を目指していた。
「なあ、サムエルさん」
ナオトが、歩きながら問いかける。
「デボラさんって、どんな人なんですか?」
サムエルは一瞬、言葉を選ぶように視線を遠くへ向けた。
「デボラ様は、ダリヨス王の姉君にあたるお方です」
「この国では、王と同等……いや、それ以上の権威をお持ちの方と言ってよいでしょう」「私の師匠でもあるのですよ」
イシュタルが、誇らしげに付け加えた。「師匠?」
ナオトは目を瞬かせる。「私の娘ミカルも、デボラ様のもとで学んでおります」
サムエルは続けた。「神官の位を持つ者は、この国ではごくわずか。
デボラ様と“三大神官”と呼ばれる方々だけです」「彼女たちは、代々受け継がれた叡智と方術を操ります」
「へえ……」
ナオトは素直に感心した。「ルンディーナ姫の行方を探るには、デボラ様のお力が不可欠なのです」
そう話しているうちに、一行の視界が一気に開けた。
丘の頂に――黄金に輝く神殿がそびえ立っていた。
陽光を受けて、壁も柱も、まるで溶けた金のようにきらめいている。
「なに、あれ……」
メグミが息を呑む。「すごい……」
アミカは言葉を失っていた。「さあ、参りましょう」
サムエルが促す。神殿の中は、静寂に満ちていた。
そこにいるのは、白衣をまとった女性たちだけだった。彼女たちは一行に気づくと、深々と頭を下げる。
やがて巫女に導かれ、謁見の間の前で足を止めた。
「こちらで、少々お待ちください」
扉が閉じ、静けさが戻る。
――ほどなくして。
ゆっくりと扉が開き、一人の女性が姿を現した。
思わず、ナオトは息を呑んだ。
艶やかな黒髪。
しなやかな肢体。
神聖さと色香が、危ういほどに同居している。「デボラ様……」
イシュタルが、深く頭を下げる。「……え?」
ナオトは思わず声を漏らした。「この人が、神官長?」
「ナオト、なにデレデレしてるのよ」
メグミが肘で突く。「救世主をお連れしました」
サムエルが、恭しく告げた。「まあ」
デボラは目を細め、ナオトを見つめる。「この方が……ふふ、かわいらしい少年ですこと」
「お名前は?」「ナ、ナオトです……」
ナオトは、完全に調子を狂わされていた。
「サムエル」
デボラは、ふっと真顔になる。「まずは、私の実験に付き合ってもらおうかしら?」
「……なっ」
英雄サムエルですら、言葉を失った。その空気を破るように、ナオトが一歩前に出た。
「デボラさん」
「俺たち、お姫様を助けたいんです」「力を貸してください」
メグミも、まっすぐ頭を下げた。「……いいでしょう」
デボラは、あっさりと頷いた。
「ここから西の果てに、マルデューク帝国の要塞があります」
「ルンディーナ姫は、そこに囚われています」「じゃあ――」
ナオトが身を乗り出す。「ですが」
デボラは指を立てた。
「強力な結界が張られています」
「それを破るには、三大神官の力が必要です」「それだけじゃないわ」
彼女の声が低くなる。
「帝国には、異質で邪悪な力が働いている」
「倒す方法は?」
ナオトが尋ねる。「――あのお方に聞くしかありません」
「……誰です?」
「ホレブ山の大賢者です」
サムエルが答えた。「ダリヨス一世と共に、この国を築いた存在」
サムエルの表情が、わずかに曇る。
「しかし、あそこへ行くには……」
「妖怪や魑魅魍魎が跋扈する森を越えねばなりません」
デボラが淡々と告げた。「えええ!?」
メグミとアミカが声を上げる。「なんだ、そんなことか」
ナオトはあっけらかんと言った。「問題ないですよ」
「……さすが、ナオト様」
デボラは意味深に微笑む。「任せてください」
ナオトは胸を張った。「って、また無責任な!」
二人の叫びが重なる。こうして、進むべき道は示された。
黄金の神殿を後にする一行の前には、
さらなる試練が待ち構えている。そしてメグミとアミカは、今日もまた、
ナオトの“軽さ”に振り回されるのであった。つづく