ファンタジー小説 銀河漂流記

銀河漂流記 第6話

黄金の神殿

聖なる丘へと続く道は、ゆるやかでありながら、どこか張りつめた空気をまとっていた。

ナオト、メグミ、アミカ。
そしてサムエルとイシュタル。

一行は、森を抜け、丘を登りながら神殿を目指していた。

「なあ、サムエルさん」

ナオトが、歩きながら問いかける。

「デボラさんって、どんな人なんですか?」

サムエルは一瞬、言葉を選ぶように視線を遠くへ向けた。

「デボラ様は、ダリヨス王の姉君にあたるお方です」
「この国では、王と同等……いや、それ以上の権威をお持ちの方と言ってよいでしょう」

「私の師匠でもあるのですよ」
イシュタルが、誇らしげに付け加えた。

「師匠?」
ナオトは目を瞬かせる。

「私の娘ミカルも、デボラ様のもとで学んでおります」
サムエルは続けた。

「神官の位を持つ者は、この国ではごくわずか。
デボラ様と“三大神官”と呼ばれる方々だけです」

「彼女たちは、代々受け継がれた叡智と方術を操ります」

「へえ……」
ナオトは素直に感心した。

「ルンディーナ姫の行方を探るには、デボラ様のお力が不可欠なのです」

そう話しているうちに、一行の視界が一気に開けた。

丘の頂に――黄金に輝く神殿がそびえ立っていた。

陽光を受けて、壁も柱も、まるで溶けた金のようにきらめいている。

「なに、あれ……」
メグミが息を呑む。

「すごい……」
アミカは言葉を失っていた。

「さあ、参りましょう」
サムエルが促す。

神殿の中は、静寂に満ちていた。
そこにいるのは、白衣をまとった女性たちだけだった。

彼女たちは一行に気づくと、深々と頭を下げる。

やがて巫女に導かれ、謁見の間の前で足を止めた。

「こちらで、少々お待ちください」

扉が閉じ、静けさが戻る。

――ほどなくして。

ゆっくりと扉が開き、一人の女性が姿を現した。

思わず、ナオトは息を呑んだ。

艶やかな黒髪。
しなやかな肢体。
神聖さと色香が、危ういほどに同居している。

「デボラ様……」
イシュタルが、深く頭を下げる。

「……え?」
ナオトは思わず声を漏らした。

「この人が、神官長?」

「ナオト、なにデレデレしてるのよ」
メグミが肘で突く。

「救世主をお連れしました」
サムエルが、恭しく告げた。

「まあ」
デボラは目を細め、ナオトを見つめる。

「この方が……ふふ、かわいらしい少年ですこと」
「お名前は?」

「ナ、ナオトです……」

ナオトは、完全に調子を狂わされていた。

「サムエル」
デボラは、ふっと真顔になる。

「まずは、私の実験に付き合ってもらおうかしら?」

「……なっ」
英雄サムエルですら、言葉を失った。

その空気を破るように、ナオトが一歩前に出た。

「デボラさん」
「俺たち、お姫様を助けたいんです」

「力を貸してください」
メグミも、まっすぐ頭を下げた。

「……いいでしょう」

デボラは、あっさりと頷いた。

「ここから西の果てに、マルデューク帝国の要塞があります」
「ルンディーナ姫は、そこに囚われています」

「じゃあ――」
ナオトが身を乗り出す。

「ですが」

デボラは指を立てた。

「強力な結界が張られています」
「それを破るには、三大神官の力が必要です」

「それだけじゃないわ」

彼女の声が低くなる。

「帝国には、異質で邪悪な力が働いている」

「倒す方法は?」
ナオトが尋ねる。

「――あのお方に聞くしかありません」

「……誰です?」

「ホレブ山の大賢者です」
サムエルが答えた。

「ダリヨス一世と共に、この国を築いた存在」

サムエルの表情が、わずかに曇る。

「しかし、あそこへ行くには……」

「妖怪や魑魅魍魎が跋扈する森を越えねばなりません」
デボラが淡々と告げた。

「えええ!?」
メグミとアミカが声を上げる。

「なんだ、そんなことか」
ナオトはあっけらかんと言った。

「問題ないですよ」

「……さすが、ナオト様」
デボラは意味深に微笑む。

「任せてください」
ナオトは胸を張った。

「って、また無責任な!」
二人の叫びが重なる。

こうして、進むべき道は示された。

黄金の神殿を後にする一行の前には、
さらなる試練が待ち構えている。

そしてメグミとアミカは、今日もまた、
ナオトの“軽さ”に振り回されるのであった。

つづく

-ファンタジー小説 銀河漂流記