ファンタジー小説 銀河漂流記

銀河漂流記 第5話

それぞれの事情

宮殿の大広間には、柔らかな音楽が満ちていた。
竪琴の調べに合わせ、歌姫たちの澄んだ声が天井に溶けていく。

ナオトたちは、夢の中にいるような気分でその光景を眺めていた。

長い旅路を思わせる疲れも、ここでは不思議と和らいでいた。

「さあ、みなさん。遠慮なさらず、たくさん召し上がってくださいね」

エリザベス皇太后は、穏やかな笑みを浮かべて勧めた。

「こんなに親切にしていただいて……」
メグミは戸惑いながらも、深く頭を下げた。

「ありがとうございます。本当に……」

その空気を、あえて壊すように、キョースケが口を開いた。
「……で、そろそろ本題に入ったらどうだ?」

「おい、キョースケ」
ナオトが小声で制する。

サムエルは、しばし沈黙した後、重々しく言った。

「率直に申し上げます」
「この国を――救っていただきたい」

一瞬、音楽が遠のいたように感じられた。

「ど、どういうことですか?」
アミカの声が震える。

エリザベスは静かに立ち上がり、彼らをまっすぐ見つめた。

「あなた方は、古の予言書に記された存在なのです」

「……えええっ!?」
メグミとアミカの声が重なる。

「救世主、ってやつか?」
キョースケは肩をすくめた。

ダリヨス王が、低く、しかし確かな声で告げる。

「マルデューク帝国に攫われた、この国の第一皇女を救ってほしい」

「……お姫様を?」

「ルンディーナ姫です」
ハマンが続ける。

「先王ダリヨス二世陛下のご息女であり、その妹君が――」

「イシュタル様です」

イシュタルの肩が、小さく揺れた。

「兄である先王は、マルデューク帝国に殺されました」

ダリヨス王の拳が、わずかに震える。

「その時、姫は連れ去られたのです」

「なるほどな……」
キョースケは小さく笑った。

「事情は分かった」

その笑みの奥に、誰も気づかなかった。

(……面白い)

キョースケの胸に浮かんだのは、使命感でも正義感でもない。

(この世界なら、俺は“上”に立てる)

現実の世界で感じていた閉塞感。
誰にも評価されない日々。
それらが、この瞬間、霧のように消えかけていた。

「行こう」
ナオトが、あっさりと言った。

「お姫様を助けに行こう」
「な、イシュタル。俺たちが絶対に助け出してみせる」

「……うん」
イシュタルは涙をこらえ、必死に頷いた。

「お姉ちゃんを……助けて」

「また、無責任な……!」
メグミとアミカが同時に声を上げたが、もう遅かった。

こうして、旅は決まった。

――だが、その夜。

「……あれ?」
翌朝、アミカが顔を上げた。

「キョースケがいないわ」

「逃げたんじゃないか?」
ナオトは冗談めかして言った。

だが、真実は、さらに遠くにあった。

キョースケは夜の宮殿を抜け、宇宙船へ向かう途中で捕らえられていた。

そして今、異様な玉座の前に立っていた。

「お前が、インセクターを一撃で倒した者か」

マルデューク帝国の女王。
その瞳は、冷たく、深い。

「ああ」

キョースケは恐れなかった。
「俺の力があれば、この星なんて簡単に支配できる」

女王は、わずかに目を細めた。

「……私と同じだな」

「なら、話は早い」
キョースケは笑う。

「俺がお前たちの“神”になってやる」
「手を貸してやるよ」

その言葉は、静かに闇へと落ちていった。

一方、宮殿では――

「仕方ない」
ナオトは肩をすくめた。

「俺たち三人で行こう」

「ナオト様」
サムエルが一歩前に出る。

「私が護衛として同行いたします」

「私も行く!」
イシュタルが強く言った。

「心強いですね」
ナオトは、どこか楽しそうに笑った。

「まずは神官長デボラのもとへ向かいます」
サムエルは言った。

こうして、三人と数名の護衛は、姫を救う旅へと出発した。

キョースケの姿は、そこになかった。

未知の敵。
迫る戦乱。
不安は確かにあった。

だが、ナオトだけは――
まるで遠足にでも出かけるかのように、前を向いていた。

その軽さが、やがて運命を大きく揺らすことになるとも知らずに。

つづく

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