へブロン王国 後編
ナオトたちは、イシュタルの城でしばらく身を寄せることになった。
しかし、その滞在は思いがけず早く終わろうとしていた。「ぜひ、この国の王にも紹介したいのです」
イシュタルの祖母は穏やかな声で言った。こうして一行は、白銀に輝く山々を越え、
へブロン王国の中心都市――ベエル・シェバへと向かった。巨大な宮殿は、遠くからでもその威容を見せていた。
幾重もの門をくぐり進むたび、ナオトは不思議な違和感を覚える。門兵たちがイシュタルの祖母に、必要以上に深く頭を下げているのだ。
(……この人、ただのおばあちゃんじゃない)
やがて広間に通されると、重厚な衣をまとった男が兵士たちとともに待っていた。
「エリザベス皇太后陛下、お待ちしておりました」
一同は息を飲む。
「女王様だったのか!?」
「いえ、正確には……もう引退しているのよ」
イシュタルの祖母は、小さく微笑んだ。
「私が、ダリヨス三世陛下のもとへご案内いたします」
ハマンという男に導かれ、王の間へ入ると、
若い王――ダリヨス三世が立ち上がった。「母上、よくお越しくださいました」
王は静かにナオトたちを見渡し、頷いた。
「この客人たちを丁重にもてなしたい」
「承知しました。すでに話はお伺いしています」
歓迎の食事の準備が整うまで、ハマンが宮殿内を案内してくれた。
「こちらが神殿です。丘の上に見える白い建物……」
「この国の守り神を祀っています」「そしてこちらが、武成王府。国を守る兵を統べる場所です」
「ミカル!」
ふいに声が飛び、少女が駆けてくる。
ミカル――
神官見習いとして日々を過ごす、愛らしい少女だった。
彼女は、サムエルの娘であり、イシュタルの親友でもある。「イシュタル、来てたの?」
その後ろから、一人の男が現れた。
「ミカル、どうした? 騒がしいぞ」
「父上!」
「食事までには戻りなさいよ」
サムエル――
武成王府を統べる軍師であり、英雄と称えられる男は、誇らしげに娘に声をかけた。「……インセクターを一撃で倒したそうだな?」
サムエルの声は低いが、優しさが滲んでいる。
「いえ……大したことじゃありませんよ」
キョースケが少し照れくさそうに答える。「インセクター……あれはロボットではなく、異星の者です」
サムエルの視線は真剣だった。
「マルデューク帝国軍と名乗っています」
その名を聞いた瞬間、ナオトの胸がざわついた。
「最近、出没が増えているのです」
「すでに国民が襲われ始めている」サムエルは静かに言った。
「あなた方の力を……貸していただけないだろうか」
「サムエル、それは──」
ハマンが言葉をかぶせようとしたが、ナオトは一歩前に出た。
「いいですよ」
「俺たちでよければ、力になります」「えっ!? ちょっと、ナオトくん!」
メグミとアミカが同時に声を上げる。「だって、助けてもらったんだろ? お世話になってるし」
その頃――
宮殿の書物室にて、エリザベス皇太后が古びた書を手にしていた。
そこに記されていた一節――
『遥かなる銀河の青き惑星より来る者、この星に危機迫るとき、救世主となるであろう』「……やはり」
静かに目を閉じる皇太后。
へブロン王国に招かれた異邦の若者たち。
彼らの選択は、偶然か、運命か――。
ナオトはまだ知らない。
自らが背負った約束の重さを。つづく