ファンタジー小説 銀河漂流記

銀河漂流記 第4話

へブロン王国 後編

ナオトたちは、イシュタルの城でしばらく身を寄せることになった。
しかし、その滞在は思いがけず早く終わろうとしていた。

「ぜひ、この国の王にも紹介したいのです」
イシュタルの祖母は穏やかな声で言った。

こうして一行は、白銀に輝く山々を越え、
へブロン王国の中心都市――ベエル・シェバへと向かった。

巨大な宮殿は、遠くからでもその威容を見せていた。
幾重もの門をくぐり進むたび、ナオトは不思議な違和感を覚える。

門兵たちがイシュタルの祖母に、必要以上に深く頭を下げているのだ。

(……この人、ただのおばあちゃんじゃない)

やがて広間に通されると、重厚な衣をまとった男が兵士たちとともに待っていた。

「エリザベス皇太后陛下、お待ちしておりました」

一同は息を飲む。

「女王様だったのか!?」

「いえ、正確には……もう引退しているのよ」

イシュタルの祖母は、小さく微笑んだ。

「私が、ダリヨス三世陛下のもとへご案内いたします」

ハマンという男に導かれ、王の間へ入ると、
若い王――ダリヨス三世が立ち上がった。

「母上、よくお越しくださいました」

王は静かにナオトたちを見渡し、頷いた。

「この客人たちを丁重にもてなしたい」

「承知しました。すでに話はお伺いしています」

歓迎の食事の準備が整うまで、ハマンが宮殿内を案内してくれた。

「こちらが神殿です。丘の上に見える白い建物……」
「この国の守り神を祀っています」

「そしてこちらが、武成王府。国を守る兵を統べる場所です」

「ミカル!」

ふいに声が飛び、少女が駆けてくる。

ミカル――
神官見習いとして日々を過ごす、愛らしい少女だった。
彼女は、サムエルの娘であり、イシュタルの親友でもある。

「イシュタル、来てたの?」

その後ろから、一人の男が現れた。

「ミカル、どうした? 騒がしいぞ」

「父上!」

「食事までには戻りなさいよ」

サムエル――
武成王府を統べる軍師であり、英雄と称えられる男は、誇らしげに娘に声をかけた。

「……インセクターを一撃で倒したそうだな?」

サムエルの声は低いが、優しさが滲んでいる。

「いえ……大したことじゃありませんよ」
キョースケが少し照れくさそうに答える。

「インセクター……あれはロボットではなく、異星の者です」

サムエルの視線は真剣だった。

「マルデューク帝国軍と名乗っています」

その名を聞いた瞬間、ナオトの胸がざわついた。

「最近、出没が増えているのです」
「すでに国民が襲われ始めている」

サムエルは静かに言った。

「あなた方の力を……貸していただけないだろうか」

「サムエル、それは──」

ハマンが言葉をかぶせようとしたが、ナオトは一歩前に出た。

「いいですよ」
「俺たちでよければ、力になります」

「えっ!? ちょっと、ナオトくん!」
メグミとアミカが同時に声を上げる。

「だって、助けてもらったんだろ? お世話になってるし」

その頃――

宮殿の書物室にて、エリザベス皇太后が古びた書を手にしていた。

そこに記されていた一節――
『遥かなる銀河の青き惑星より来る者、この星に危機迫るとき、救世主となるであろう』

「……やはり」

静かに目を閉じる皇太后。

へブロン王国に招かれた異邦の若者たち。

彼らの選択は、偶然か、運命か――。

ナオトはまだ知らない。
自らが背負った約束の重さを。

つづく

-ファンタジー小説 銀河漂流記