惑星シオン
ハイスクールの特別学習で土星へ向かった
ナオト、メグミ、アミカ、キョースケの四人。だが、土星外縁リングに侵入したその瞬間、
衛星の磁場変動による異常気流に巻き込まれ、
突如として出現したブラックホールへと吸い込まれてしまった。――そして。
ブラックホールの先で、彼らの意識は闇に沈んだ。
「……ワン! ワン!」
甲高い電子音のような鳴き声と、体を小突かれる感覚。
「……ん……?」
最初に目を覚ましたのはメグミだった。
「ローリィ……?」
小型子犬ロボット《ローリィ》が、必死そうに吠えながら彼女の顔を覗き込んでいる。
「私たち……ここは……?」
メグミは慌てて周囲を見回し、すぐ隣に倒れているナオトに気づいた。
「ナオト! 起きて!」
「ん……メグミ……?」
ほどなくして、アミカとキョースケも意識を取り戻す。
「どうやら……本当に、どこかに飛ばされたらしいな」
キョースケは、操縦席の計器を確認しながら、低く呟いた。
「アミカ、現在地を確認してくれ」
「わかったわ」
アミカが航宙ナビを操作する。
「……え?」
「どうしたの?」
「モニターに……地球が映ってるわ。青くて……きれい……」
「地球……?」
ナオトが画面を覗き込む。
「俺たち、地球に戻ってきたのか?」
「ちょっと待って」
アミカの表情が曇る。
「航宙ナビは……太陽系から二百三十万光年離れた、アンドロメダ銀河を示してる」
「……は?」
「ナビが壊れてるんじゃないのか?」
キョースケが眉をひそめる。
「そうよ。どう見たって、あれは地球だわ」
「……そうかな……」
ナオトは言葉を濁した。
「船の損傷状況だが」
キョースケが報告する。
「通信機とワープ推進制御ボードがやられている。ただし、航行自体は可能だ。
地球に行ければ、部品も手に入るし修理もできる」「じゃあ、とりあえず地球へ――」
その結論に従い、彼らは通信不能のままSOS信号を自動発信し、
近くの森林地帯へ不時着した。
「さて……レスキューが来るまで、少し時間があるな」
ナオトは背伸びをしながら言った。
「久しぶりに地球を散歩でもする?」
「私も行く!」
メグミがすぐに手を挙げる。
「アミカちゃんもどう?」
「そうね……ここにいても退屈だし」
アミカはキョースケに視線を送る。
「……わかったよ。俺も行く」
四人は宇宙船を降り、森の中を歩き始めた。
しばらく進むと、木々の間に開けた場所が現れる。
「わあ……!」
メグミが声を上げた。
「湖……だね」
透き通った水面が太陽の光を反射し、静かに揺れている。
「地球の湖って、人工じゃないからきれいね」
「ふん……」
ローリィが先に駆け出し、湖畔で振り返って吠えている。
メグミとナオトは笑いながら駆け寄った。
――そのとき。
湖のほとりの草原で、花を摘んでいる一人の少女の姿が目に入った。
民族衣装のような、見慣れない服装。
「こんにちは。お嬢さん」
メグミが声をかける。
だが少女は驚き、言葉を失ったまま怯えた表情を浮かべた。
「あれ……? 私の言葉、通じてない?」
違和感を覚えたナオトは、耳元に宇宙語翻訳機を装着する。
「ごめんね。驚かせてしまって」
優しく声をかけた。
「怪しい者じゃないよ。僕はナオト。君の名前は?」
「……イシュタル」
少女はおそるおそる答えた。
「あなたたち……マルデューク帝国の人?」
「違うよ。僕たちは太陽系の銀河連邦から来た地球人だ」
ナオトは続けて尋ねる。
「ここは……どこなんだい?」
「ここは《シオン》という惑星」
イシュタルははっきりと言った。
「この国は《ヘブロン王国》よ」
「……やっぱり、そうか」
ナオトは小さく呟いた。
「どうしたの? ナオト」
「ここは……地球じゃない」
「えええ!?」
駆けつけてきたアミカとキョースケも、その事実を聞き、言葉を失った。
「惑星シオン……ヘブロン王国……」
「ナビは……正確だったってことか」
キョースケが歯噛みする。
「ということは……SOSを出しても、誰も来ない」
「どうするのよ!」
アミカが声を荒げる。
「ワープ制御ボードも壊れてるのよ!? どうやって帰るの!?」
「大丈夫よ、アミカちゃん」
メグミが肩に手を置く。
「ナオトはね、電子工作が昔から得意なの。
ローリィだって、小学生の時に作ってくれたんだから」
ローリィが誇らしげに「ワン!」と鳴く。
「なんとかしてくれるよね?」
「……うん」
ナオトは苦笑した。
「でも修理には時間がかかる。配線が切れてるなら、純金が必要だ」
「……やっぱり、無責任ね」
メグミとアミカの声が重なった。
こうして、ナオトたち四人は、ブラックホールによって銀河の果て――
惑星《シオン》へと飛ばされていた。最初に出会った住人、少女イシュタル。
救助も帰還の目処もない異世界の星。
この惑星で、彼らは何を知り、何と戦い、
そして――故郷の銀河へ帰ることができるのだろうか。つづく