ブラックホール
西暦23XX年――
人類は太陽系全域にコロニーを築き、宇宙での生活を当たり前のものとしていた。その中でも、
コロニーNo.9〈サジタリオン首長国〉は、
教育と科学研究に力を入れることで知られている。セイント・ザビエル学園ハイスクール。
その教室で、今日の授業はいつもとは違う空気に包まれていた。
「今日は特別学習の日です」
担任教師の一言に、教室がざわめく。
「これから各惑星方面行きのシャトルに乗り、
課題に書かれている調査を行ってもらいます。
帰還後、必ずレポートを提出すること」ホログラムに映し出されたグループ分けを見て、生徒たちは一斉に確認を始めた。
「それでは、各自、決められたグループに分かれて行動してください」
「ねえ、ナオト。私たち、同じグループね」
明るい声で話しかけてきたのはメグミだった。
「アミカちゃんとキョースケくんも一緒よ」
「アミカちゃんと……」
ナオトは一瞬、顔を緩めかけてから、
「……って、キョースケのやつもかよ」
小さくため息をつく。
「よろしくね。私たち、同じグループ」
アミカは人懐っこい笑顔で手を振った。
「くれぐれも俺の足を引っ張らないでくれよ」
腕を組んで言うのは、キョースケ。
成績優秀、操縦技術もトップクラスだが、口の悪さでも有名だった。
「私たちの調査先は……土星ね」
アミカが端末を確認する。
「土星のリングについての調査か……」
「土星か……」
ナオトは窓の外、遠くに浮かぶ星々を見つめた。
「俺たち、一番遠い場所じゃないか?」
「そうだね。でも、楽しそうじゃん?」
メグミは屈託なく笑う。
「おい、早く行くぞ」
キョースケが先を促す。
「操縦は俺がやる。ナビはアミカ、お前だ」
「了解」
「優秀な二人がいて助かるね」
「はいはい。どうせ俺なんか……」
ナオトのぼやきを無視するように、シャトルは発進準備に入った。
土星宙域。
「わあ……土星が見える」
巨大なガス惑星と、その周囲を取り巻く美しいリング。
「本当に、ちゃんとリングがあるんだな……」
ナオトが感嘆の声を漏らす。
「あれが土星のスポーク現象よ」
アミカが説明する。
「衛星も、こんなにたくさん……」
「よし、リング内部に進入する」
キョースケの操作で、シャトルはゆっくりとリングの中へと入っていった。
――その瞬間。
船体が激しく揺れた。
「きゃっ!」
「どうしたの、キョースケくん?」
「リング内の気流に捕まった!」
「土星の重力と、リングを構成する粒子の電磁相互作用によるものだね」
ナオトが冷静に分析する。
「どうやって回避するの?」
「しばらく流れに乗るしかない。気流が弱まったところで離脱する」
「それしか……ないわね」
「衛星の影響で軌道は不規則だ。予測はほぼ不可能だと思う」
そのとき――
「うわっ……なんだ、あれは!?」
キョースケが叫んだ。
視界の先、空間そのものが歪み、闇が渦を巻いている。
「ブラックホールだね」
「ふざけるな! 操縦不能だ、回避できない!」
「ちょっとナオト! 何、そんなのん気なこと言ってるのよ!」
「まあ……自然に任せよう。なるようになるさ」
「無責任!」
「うわあああああ!!」
シャトルは、抗うことなく闇へと引きずり込まれていった。
重力が、光が、時間が、すべてを引き裂く。
彼らは――いったい、どこへ飛ばされるのか。
そして、生きて帰ることはできるのか。
ブラックホールの先に広がる、見知らぬ銀河、見知らぬ世界。
そこで彼らが目にするものとは――。
つづく