灼熱の空環(アストラ・ライン)
連合艦隊、総数一八〇〇隻。
敗北の影を引きずりながらも、再び進軍する。
目標は帝都防衛最終外郭――アストラ・ライン宙域。
恒星を取り巻く人工重力環と、巨大な制御施設。
その中心には、恒星フレア制御兵器が沈黙していた。
「ここを抜けば、帝都は目前だ」
ソレンは戦術図を見つめる。
盟主レグルスは遠隔指揮。
慎重な布陣。
だが、今度は退けない。
帝国側旗艦。
そこに立つのは、セウェルス・アルカディウス。
漆黒の軍装。
無言。
彼は戦術表示を一瞥する。
「分断せよ」
その瞬間。
恒星表面が裂けた。
人工的に誘発された巨大フレアが噴出する。
磁気嵐。
重力乱流。
連合艦隊の陣形が引き裂かれる。
通信が乱れる。
艦隊は三つに分断された。
数の優位は消えた。
分断された中央戦域へ、帝国親衛戦略機動軍団が突入する。
先頭に立つのはセウェルスの旗艦。
その艦は常識外れだった。
機動速度、砲撃精度、回避演算――全てが規格外。
連合巡洋艦が一隻、また一隻と爆散する。
「なんだ、あれは……」
若手将軍が呻く。
ソレンは決断する。
「私が出る」
彼の旗艦が前進する。
さらに、二隻が並ぶ。
老将。
若き猛将。
三艦、並列。
三英。
ソレン艦が先制射撃。
若手将軍が突撃。
老将が側面支援。
完璧な三位一体。
だが。
セウェルスの旗艦は、まるで未来を読んでいるかのように動く。
直撃弾が当たらない。
逆に、若手将軍の艦が貫かれる。
爆発。
老将の艦も重損。
残るはソレンのみ。
セウェルスは通信回線を開く。
「秩序とは力だ」
低い声。
感情がない。
「お前たちは、過去だ」
ソレンは最後の砲撃を放つ。
至近弾。
だが、決定打にならない。
退避警報。
艦橋が揺れる。
「撤退だ!」
悔恨とともに、ソレンは戦域を離脱する。
帝都ノヴァ・カルタゴ。
皇帝はすでに移送済み。
住民は強制退去。
兵站資源も撤収。
ゲラシムは静かに命じる。
「焼却」
軌道上の帝国艦隊が照準を合わせる。
熱線。
都市が赤く染まる。
宮殿が崩れる。
軍事政庁が溶解する。
象徴は灰になる。
帝国は中枢を移す。
重力異常に囲まれた深層防衛星域。
天然の要塞。
そこに新たな首都が設けられる。
発表が銀河に流れる。
帝国は退いていない。
再編しているのだ。
廃都テラ・カピトリウム。
連合評議会は沈黙する。
帝都を奪えば勝利という構図が崩れた。
血統は戦場で意味を持たなかった。
数も意味を持たなかった。
若手将校が呟く。
「我々では勝てない」
その言葉に、誰も反論できない。
ソレンは静かに言う。
「……まだ終わっていない」
だが、その声は弱い。
銀河は見た。
帝国の新秩序。
力による支配。
そして、焼き払われた象徴。
秩序は崩れた。
古い秩序も、
新しい秩序も、
まだ、確立していない。その隙間に、噂が流れる。
辺境で帝国艦を撃破した男がいる。
名は――ジーク。
まだ、姿はない。
だが、時代は彼を求め始めていた。
つづく