怪物、帝都に立つ
銀河帝都アストリア。
白銀の塔群の奥、宮廷最高評議会――十常院は密議を重ねていた。
「帝都防衛軍はニケフォロスと通じている」
「元老院も不穏だ」
「このままでは、我らが粛清される」
沈黙ののち、老評議官メトディオスが口を開く。
「呼ぶしかあるまい」
その名を口にした瞬間、空気が凍る。
ゲラシム・カストール、帝国辺境総軍司令官。
辺境を血で統一した男。
数日後、帝都軌道に重戦艦群が出現した。
黒鉄の艦体が星光を遮る。
ゲラシムは、旗艦の展望窓から帝都を見下ろした。
「美しいな」
そして、低く笑う。
「腐りきっている」
帝都防衛軍総司令ステファノス・リュキアスは、進駐命令に異議を唱えた。
「辺境軍の帝都常駐は、帝国法に反する」
だが、十常院は勅命を示す。
皇帝コンスタンティノスの名を冠した命令書。
偽造であることを、彼は直感した。
しかし、証拠はない。
軌道上で艦隊が対峙する。
一触即発。
だが、撃てば内戦。
ステファノスは耐えた。
その傍らに立つのは、若き将。
カイウス・レオン。
戦場無敗。帝都最強の槍。
ステファノスに拾われ、育てられた。
しかし、彼は帝都の腐敗を知っていた。
十常院の横暴。賄賂。密談。
ある夜、ゲラシムの密使が現れる。
「お前の力は、老将の影で朽ちるべきではない」
「帝国を正すのは、強者だ」
カイウスの心に、亀裂が走る。
帝都軍司令部に爆発が起きた。
陽動。
混乱。
ステファノスは、即応部隊を率いようとする。
その瞬間、背後から刃が走った。
振り向く。
そこにいたのは、カイウス。
「なぜだ……」
「あなたは、忠義に生きた」
カイウスの声は震えない。
「だが、帝国は、忠義では救えない」
血が床に広がる。
帝都防衛軍は、指揮系統を失い、崩壊した。
ゲラシムの艦隊が、地表へ降り立つ。
怪物は、帝都に立った。
数日後。
十常院は声明を発表する。
「皇帝コンスタンティノスは、統治能力を欠く」
廃位。
幽閉。
即位したのは、第二皇子ニケフォロス。
若き皇帝は玉座に座る。
だが、その背後に立つ影は巨大だった。
ゲラシム・カストール。
「皇帝は象徴であればよい」
彼は静かに言う。
「実務は、私が担う」
元老院は沈黙。
近衛軍は再編。
帝国は、軍事専横体制へ移行した。
反対派の将官が処刑される。
貴族の財産が没収される。
宮廷の十常院でさえ、発言を控え始める。
彼らは悟る。
怪物は操れない。
カイウスは玉座前に立つ。
血の匂いが消えない。
彼の胸に、わずかな疑念が残る。
だが、振り払う。
「力が秩序を作る」
惑星ヴァルディア。
ソレン・カイロは、報告を読み終えた。
「怪物が、玉座の背後に立ったか」
側近が問う。
「動きますか?」
沈黙。
そして、答える。
「まだだ」
窓の外、静かな星海。
「制度が壊れた」
「次に壊れるのは、帝国そのものだ」
彼は立ち上がる。
「準備を始めよ」
遠い辺境アグリアでは、難民が増え続けていた。
彼らの間で一つの名が囁かれる。
――ジーク。
だが、彼は、まだ動かない。
帝都に怪物。
北方に覇者。
辺境に思想。
銀河は、暗黒期へ踏み出した。
つづく