SF小説 銀河世紀

銀河世紀 第3話

絶望の中の希望

アストライア号は、静かに推進光を落とし、巨大な宇宙構造物へと接近していた。

アンドロメダ評議会管理下
――かつて銀河連邦の中枢補給拠点であった宇宙ステーション〈ヘスティア〉。

外殻には無数の修復痕が残り、装甲は年代物だったが、
それでもなお、この宙域では数少ない「秩序の名残」だった。

「ドッキング許可、下りました」

ブリッジでクラリッサ・メイ・マクダネルが報告する。

「評議会も、あなたの艦に興味を持っているようです。
“百年前の亡霊”ですから」

ジークは苦く笑った。

「亡霊でも構わない。動けるなら、それでいい」

アストライア号は、ゆっくりとドックに収まった。

ステーション内部は、かつての繁栄を想像させるには、あまりにも静かだった。
人影はまばらで、通路には応急補修の痕が目立つ。

そのドックで、ジークは一人の男と出会った。

「……これが、あのアストライア号か」

油と金属の匂いをまとった、背の高い技術者。
鋭い眼差しが、戦艦の外装をなぞる。

「ヘンリー・ハーバードだ。
評議会付き……というより、居ついてるだけの技術屋だがね」

「銀河連邦軍第七艦隊、マーク・ジークフリートだ」

名乗ると、ヘンリーは一瞬だけ目を見開き、すぐに笑った。

「百年前の英雄か。
なるほど……この艦も、妙な“気配”を放ってる」

彼は躊躇なく修理を引き受けた。
まるで、この出会いを待っていたかのように。

修理は、驚くほどの速度で進んだ。

アストライア号は、眠りから目覚めるかのように、次々とシステムを回復させていく。
その最中、ジークはまだ完全には回復していなかった。

肩の負傷。
そして、百年の断絶がもたらした、精神的な疲弊。

だが――その時だった。

警報が、ステーション全域に鳴り響いた。

「ゲノミニアン艦隊、出現!」

通信士の叫びが、空気を切り裂く。

「数は……三! 小規模ですが、明らかに偵察ではありません!」

「評議会の防衛艦は?」

「応答ありません!」

ジークは、歯を食いしばって立ち上がった。

「私が行く」

「艦長、まだ治療が――」

「指揮官が退くわけにはいかない」

銃撃音と衝撃が、通路の向こうから迫ってくる。

ゲノミニアン兵――無機質な装甲と、異様に無駄のない動き。

ジークは応戦したが、体は正直だった。
一瞬の隙。

視界が揺れ、膝が落ちる。

「――艦長!」

その時、淡い光が走った。

紫色の肌を持つ、小柄な少女が、ジークの前に立っていた。

リゲル人――ヘレン。

彼女の瞳が輝いた瞬間、空間が歪む。

ゲノミニアン兵は、まるで見えない力に押し潰されるように、壁へ叩きつけられた。

「……だいじょうぶ?」

不安そうな声。

ジークは、信じられないものを見るように彼女を見つめた。

「君が……やったのか?」

ヘレンは、小さく頷いた。

「わたし、少し……できるの」

その瞬間、通信が割り込んだ。

「艦長! 修理、終わったぞ!」

ヘンリーの声だった。

「エンジン、反応炉、全部いける!
今すぐ出られる!」

「了解だ。全員、アストライア号へ!」

ジークはヘレンの手を取り、走った。

ブリッジでは、すでにクラリッサが発進準備を整えていた。

「艦長、ここはもうダメです。
ステーションは持ちません」

「……わかった」

ドックの外では、爆発の光が広がっている。

「メインエンジン、起動」

その瞬間、ブリッジ中央に光が集束した。

人の形をしたホログラムが、静かに立ち上がる。

銀色の髪。
澄んだ瞳。

――アストライア。

「艦長」

その声は、はっきりと意思を帯びていた。

「出港します」

ジークは、前を見据え、静かに命じた。

「行こう。ここからだ」

アストライア号のエンジンが咆哮し、
巨大な戦艦は、崩壊する宇宙ステーションを背に、闇へと飛び出した。

それは、敗残者の逃走ではない。

絶望の中に、確かに灯った希望の航跡だった。

銀河大戦は、再び動き始める。

つづく

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