SF小説 銀河世紀

銀河世紀 第1話

時の狭間

地球暦30XX年。
遥か未来の宇宙では、三つの巨大な銀河団が、
それぞれの種族と文明の覇権を巡り、微妙な均衡を保っていた。

その銀河団のひとつ、アンドロメダ銀河団の中心に、
最も繁栄を極めた惑星があった。
その名は――アストリア。

惑星アストリアを統べるプトレマイオス王朝は、
王フリードリッヒの即位によって最盛期を迎えていた。
フリードリッヒ王は、天の川銀河団の銀河連邦と平和条約を締結し、
さらに乙女座銀河団の女王レアとも同盟を結ぶ。

こうして、三つの銀河団は一つの枠組み
――統一銀河連邦として結束した。

それは、銀河史においても稀な安定の時代だった。

だが、その平和は、長くは続かなかった。

プトレマイオス王朝第47年。
警戒網をすり抜けるように、無数の艦影が惑星アストリア宙域に現れた。

侵略者たちは名乗った。
――ゲノミニアン。

彼らは、遺伝子操作によって生み出された新人類だった。

銀河連邦軍は即座に迎撃態勢を取ったが、
その差は、あまりにも歴然としていた。

ゲノミニアンの艦隊は、銀河連邦軍の科学力を遥かに凌駕していた。
主力艦隊は瞬く間に撃破され、戦線は崩壊していく。

最新鋭戦艦――アストライア号も、包囲網に追い込まれていた。

「ジーク艦長……本陣の艦隊も全滅です。
 残っているのは、我々の艦だけになります」

戦術士官の声は、震えていた。

「……全速力で撤退する」

ジーク艦長――マーク・ジークフリートは、短く命じた。

だが次の瞬間、
爆音と共に、艦全体を揺るがす衝撃が走った。

「スラスター破損! 修復に時間がかかります!」

「……クルー全員、救命ポッドへ移動」

「艦長、早く!」

その叫びと同時に、さらなる衝撃が艦を襲い、
ジークの身体は、宙に投げ出された。

「――ぐあっ!」

床に叩きつけられた激痛の中で、彼は叫ぶ。

「早く行け! 私のことは構うな!」

彼は最後の力で操作パネルを叩き、
救命ポッドを射出した。

「艦長――!」

その声を最後に、ブリッジは爆炎に包まれた。

痛む肩を押さえながら、ジークは一人、ブリッジへ戻った。

「……お前たちは、いったい何者だ?」

モニター越しに映る異形の影が答える。

「お前たちの時代は、終わった」

「これで終わりだ」

次の瞬間、
アストライア号は、周囲の艦隊の爆風によって弾き飛ばされた。

そして
――爆発が生み出した、歪んだ空間。

戦艦は、その裂け目に、静かに飲み込まれていった。

百年の時が流れた。

かつて銀河連邦が支配していた宇宙域は、
秩序を失い、暗黒の無法地帯と化していた。

そんな辺境宙域で、一隻の救助艦が漂流艦を発見する。

――銀河連邦軍戦艦、アストライア号。

救助隊は艦内へ突入し、生存者の捜索を開始した。

「……生体反応、あり!」

瓦礫の奥で発見されたのは、一人の男だった。

「ドクター、生存者を発見。意識不明、重体です!」

救助艦スピカの船医長は、即座に治療を開始した。
最新の医療技術が、停止していた時間を再び動かしていく。

数時間後
――男は、ゆっくりと目を開いた。

「……ここは……どこだ?」

「目が覚めましたか」

入室してきた女性が、穏やかに声をかける。

「私は救助艦スピカの船医長、
 クラリッサ・メイ・マクダネルです。
 あなたのお名前は?」

「……銀河連邦軍第七艦隊所属、
 戦艦アストライア号艦長。
 マーク・ジークフリートだ」

クラリッサは、言葉を失った。

「……銀河連邦軍、ですか?」

「そうだ」

彼女は、困惑したように首を傾げる。

「ですが……銀河連邦軍は、
 百年前に壊滅したはずです」

「……百年前、だと?」

その言葉が、ジークの中で、重く反響した。

彼は知らなかった。

自分が、戦艦アストライア号と共に、
時の狭間に取り残されていたことを。

百年という空白。
滅び去った銀河連邦。
そして、再び迫りくる銀河大戦。

そのすべてが、
今、この瞬間から始まろうとしていた。

つづく

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